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「僕のケータイとは機種が違ったようだ。ちょっと預からせて。充電してきてあげる」


「……それは困ります」


「御園さんはここで仕事に集中してくれればいいんだよ。今日の成果はあったかな?」


 成果なんて、一件もない。

 ただ書き込みにアドバイスを書いただけ。


「まだ要領がわからなくて。すみません」


「誰とも逢う約束をしていないのか?初日だから仕方がないな。直に慣れるよ」


 店長がテーブルの上で、いきなり私の手を掴んだ。思わず持っていた箸が床に落ちる。


「……店長」


「君は黙って僕の言う通りにすればいいんだよ」


 店長の汗ばんだ手が、私の手を強く握っている。


「この仕事は簡単だろう。心配しなくてもいい、スーパーKAISEIで働くより給与は弾む。君に相応しい高額な契約も考えてあるんだよ」


「高額な契約?この仕事以外に……ですか?私、直接ユーザーと逢うのはお断りします」


「違うよ。君を他の男に渡したりはしない。僕と愛人契約を結ばないか。【桃色恋愛カウンセラー】はもともと僕の愛人が、暇潰しに始めたサイトでね」


「愛人……」


「僕は彼女に好きなだけ金品を与えたのに、可愛い小鳥は自由が欲しいと逃げ出してしまったんだ」


「逃げ……出した?」

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