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 その日の夜、店長がマンションに戻って来た。


 時刻は午後十時。


「遅くなってごめん。冷蔵庫の中のものは自由に飲食していいからね。全部スーパーKAISEIの商品だけど。僕が常に補充するから」


「ありがとうございます」


「夕飯はもう食べた?」


「いえ……まだ」


「ちょうど良かった。これ寿司源の握り。一緒に食べよう」


「ありがとうございます。あの……店長」


「どうした?」


「店長、私はこのマンションで生活するのでしょうか?」


「そうだよ。ここのこと誰かに話した?」


「……いえ。実は今日からお世話になるとは思っていなかったので、ケータイの充電器も着替えも持って来てなくて……」


「君のために新しい洋服も下着もクローゼットに用意してある。身の回りの生活必需品は全て揃っているから、自由に使っていい。ケータイの充電が切れたのか?それは大変だね。ちょっと見せて。ケータイは僕と同じメーカーだよね。僕の充電器が使えるかも」


 お寿司を食べながら、店長が私に手を差し出した。私は何のためらいもなく携帯電話を渡す。


 店長はそれを手に取り、自分のジャンパーのポケットに入れた。

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