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「でもいないみたい。もう寮に入ったのかな?まだ荷物残ってるのに……」


 担当はぶつぶつと独り言を呟いている。


「腹が減っているなら、生卵でも飲むか?」


「は?そんなものいりませんよ」


 怪訝そうな顔で俺を睨むな。生卵しか持ち合わせていないのだから。これは精一杯のもてなしだ。


「君は世田谷に住んでいるのか」


「はい、駅前のマンションですが」


「なんだ、意外と近くに住んでいるのだな。そうだ、君に頼みがある。ちょっと俺に付き合ってくれないか」


「只野先生にですか?」


「俺とでは不満か?」


「いえ、構いませんよ。どちらへ?」


「小料理店『祭』だ」


「祭は……お高いですよ。失礼ですが、大丈夫ですか?」


「問題ない。セシリア社の接待ということで処理しろ」


「……弊社の接待。わかりました。後で編集長に交渉します」


「では行こう」


「只野先生、待ち人は?」


「ここで待っていても彼女に逢えそうにない。祭に行けば、ヒントは見つかるかもしれない」


「只野先生の待ち人は交際相手ですか?お付き合いされている女性がいらっしゃったんですね」


「どういう意味だ?俺が女性と付き合ってはいけないのか」


「……いえ、失礼しました」

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