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 店員は俺を見据え不敵な笑みを浮かべた。


「彼女が退職する前に、『お客様に付きまとわれて困っている』と相談を受けたことがあります。それはあなたのことではありませんか?ストーカー行為は犯罪ですよ」


「無礼な。誰がストーカーだ!俺は客だぞ」


 暴力は意に反するが、あまりの無礼に拳を振り上げる。


「お客様、店内で暴力を振るわれるなら、こちらも警察を呼びますよ。お客様の職業は確か小説家とか?スキャンダルになると困るのでは?」


「……っ、失敬な。警察を呼ぶなら、呼べばいいだろう。俺は手を上げただけでまだ殴ってはいない」


「とにかく、彼女は退職したのですから、もう付きまとわないで下さい」


 店員は俺に背を向けた。


「店長、御園さんからお電話です」


 店長?

 この失敬な男が店長なのか。


 彼女からの電話?

 彼女は確か派遣社員だったはず。


 ここを辞めて、別の会社に派遣されたのか?

 主役が消えてしまっては、俺の小説もここまでだ。


 店長はスーパーの裏手にある事務室に向かう。


 俺は納得がいかないまま、卵のパックを掴みレジに向かった。

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