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 狭い室内、ドア越しに男性の声がする。


「この狭いマンションに彼女と住んでいるのか?彼女は仕事何してるの?」


「派遣なんだ。私と一緒にセシリア社を受けたんだよ。付き添いのつもりで試験を受けた私が採用されて、彼女は不採用。だから責任感じてるの」


 責任!?それで私を居候させてくれてたの?


「みやこが責任を感じることはないだろう。彼女が会社に必要とされなかっただけだ。それにみやこが入社したから、俺達は逢えたわけだしな」


 ……彼はみやこと同じセシリア社の社員?編集者なのかな。


 会話が途切れた。

 この沈黙が……耐えられない。


 変な想像しちゃうんだ。

 やっぱり、今夜はネットカフェに泊まろう。


 夜逃げするみたいにそーっとドアを開けると、目の前にはスーツを着た男性。


「わわ、わ」


「失礼、また逢いましたね。お邪魔しました」


「私は外出するので、どうぞごゆっくりなさって下さい」

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