75

 ◇


 午前十一時、セシリア社の担当に連絡すると、すぐに訪ねて来た。


「只野先生、原稿をいただきに上がりました」


「それなら出来ている」


 担当を座敷に通し、プロローグと第一章の原稿を差し出す。


「ありがとうございます。早速拝読させていただきます」


 担当はパラパラと原稿を捲ると、俺の目の前で赤鉛筆を取り出し、原稿をチェックしする。


「只野先生、ストーリーはありきたりで、ややインパクトにかけますね。でも前回拝読した作品よりも、女性向きと思われます。一応、この原稿はお預かりします。帰社し、編集長と協議します。全体のプロットはもう出来てますか?」


 作家でもないくせに、作家の原稿をダメ出しするとはいい度胸だ。

 前回は過去に執筆した戦国時代のお宝小説を、全作一頁しか閲覧していないだろう。


 一頁で作品の良し悪しがわかるとは、到底思えない。


「掲載が決定したら、改めて打ち合わせをしたいと思います。その後はゲラにて校正作業を行いますので。次回までに全体のプロットと第二章もいただけますか?」


 もうおかわりを要求するのか。欲張りな女だ。


「問題ない」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る