73
その日、桃色のアドバイス通り俺は彼女の寝ている二階に一歩も近付かなかった。
◇
目覚めると、台所で人影が動いている。どうやら俺はそのまま座敷で寝てしまったようだ。
コトコトと鍋が音を鳴らす。美味そうな味噌汁の匂いが胃袋を刺激する。
「只野先生、おはようございます。起こしてすみません。お台所勝手にお借りしています」
彼女はとても好意的に微笑んだ。
これは俺への警戒心が緩んだということか?
台所を我がもの顔で自由に使われることは若干気にいらないが、彼女の警戒心が緩んだ証拠なら、それも致し方ない。
洗面所で顔を洗い座敷に戻ると、テーブルの上には朝食が並んでいた。
炊きたてのご飯。
わかめと
ふわふわのオムレツ。
俺の漬けた胡瓜の漬物。
卵好きなだけあって、オムレツの焼き加減は絶妙だった。
「
思わず口から零れ落ちた言葉に、彼女が嬉しそうに微笑んだ。
母が亡くなって以来だ……。
こんな美味い朝食を食べたことがない。
他人の作る飯を、こんなに美味いと感じるとは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます