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 二階には三室ある。

 内鍵がついている部屋は、元々俺が使用していた部屋だ。


 中学時代、引きこもりがちだった俺が自分で鍵を取り付けた。

 簡素な鍵だから、その気になれば外から抉じ開けることは出来る。


「本当にここで構わないのか?」


 部屋は当時のまま。ここ数年二階に上がることはなく、カーテンは閉じたままでタンスの上には埃が被っていた。


「布団は押し入れに入っている。新しいシーツも押し入れにあるはずだ。適当に使え」


「はい。色々ありがとうございます。只野先生、掃除機はありますか?お掃除してもいいですか?」


「押入れに入っている。勝手にしろ」


「ありがとうございます。おやすみなさい」


 彼女は俺に深々と頭を下げた。


「……君」


「はい?」


「恋愛に対する女性の気持ちを、また教えて欲しい」


「私でお役に立つのなら喜んでご協力します」


 桃色のアドバイスも心強かったが、彼女のアドバイスは効果覿面こうかてきめんだ。

 胃もたれの時に服用する、食前胃腸薬みたいに即効性がある。


 プロローグを書いたことで、胃がスーッと軽くなった。

 この勢いで一章のあらすじも書ける気がする。


 一階の座敷に戻り、机に座り万年筆を握る。


【第一章 蜜蜂】タイトルはこれでいいだろう。


 男と女は一夜限りの相手と、偶然にも同じ職場で再会する。男は転勤先で女の上司となる。上司は企業の中では絶対君主。


 情熱的な一夜を過ごした相手が、誰もが敬遠する嫌われ者の上司と知り女は愕然とする。だが、男との情事は女にとって忘れられない刺激的な一夜だった。


 頭では男を拒否するものの、一度上り詰めた体は本能的に男を求めている。社内では見せない男の甘い言葉と激しい夜を思い出し、体が疼き仕事に集中出来ない。


 一章のあらすじはこれでいいだろう。

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