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「年収とか結婚とか、話しているように聞こえましたが……」


「問題ない」


「本当にすみません」


 これでまたひとつ、只野さんに借りが出来てしまった。


「では、行こうか」


「…えっ!?」


「約束は約束だ。約束が果たせないなら、今のは全部嘘だったと両親に電話してもいい」


「……っ、それは困ります。お屋敷には部屋は沢山あるんですよね?」


「そうだ」


「内鍵はありますか?」


「内鍵?トイレと浴室、俺が昔引きこもっていた部屋には内鍵がある」


 昔……引きこもりだったの?

 その雰囲気は漂っているから、別に驚きはしないけど。


「では、引きこもりの部屋でお願いします」


 下手な約束をしたばかりに、私は補導された学生みたいに、只野さんの後ろをとぼとぼついて歩くはめになる。

 着流しの裾が歩くたびに揺れ、下駄がカラカラと音を鳴らした。


 ――世田谷の住宅街。

 夜訪問すると、只野家は不気味だ。塀から見える柳の枝が、幽霊のようにゆらゆら揺れている。


 まるで戦国時代の武家屋敷みたいだな。

 しかも、朽ち果てた武家屋敷。


「遠慮するな」


 遠慮ではなく怯えてるの。ノコノコついて来た自分に後悔している。

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