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「はじめまして。お嬢さんと清い交際をしている。心配無用だ」


『…それは……どうも。只野さんは小説家だそうですね。小説で生計を立てられているのですか?失礼ですが年収は……?印税ってガッポリ入るものなんですか?』


「そんなことを話す必要はないだろう。交際と年収がどう関係するというのか」


『失礼しました。まひるとは結婚前提のお付き合いだと思っていたので』


「結婚?」


 只野さんが私に視線を向けた。母が余計なことを話したに違いない。


『結婚』というキーワードが飛び出し、只野さんから携帯電話を奪い取る。


「母さん、映画始まるから。またね。おやすみなさい」


『まひる、待ちなさい。まだ話は終わっとらん……』


 プチッ……。強制終了。

 これでよし。


「只野先生、ありがとうございました。母が何か失礼なことを言いませんでしたか?」


「失礼なことだらけだ。それよりネットカフェで映画が上映されるのか?」


 上映されるわけないよ。

 母の手前、映画館デートの設定にしただけ。


 只野さんは生真面目な人だな。ていうか、融通もきかないし演技も出来ない。

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