刺激的な一夜

まひるside

63

 再び携帯電話が振動した。

 メールの返信をしなかったから、おそらく母に違いない。


 テーブルの上で震えている携帯電話を、只野さんはじっと見つめている。


「出ないのか?」


「母です」


「俺が恋人を演じてやる。付き合ってもいないのに恋人の振りをするとは、なかなか斬新だ」


「本当ですか?母は疑り深いから言葉には気をつけて下さいね」


「問題ない」


 ネットカフェを出て電話に出ると、母は一気に捲し立てた。

 キンキンとした大きな声、鼓膜が破れそうだ。


『まひる、この間はつい騙されてしもうたけど、今夜は騙されんけぇね』


 ずっと騙されててよ。


「母さん、今デート中なの。邪魔しないで」


『デート中?またそんな嘘を。いつからほら吹きになったんね。そんな子に育てた覚えはないよ』


「本当だってば。彼に電話代わるから、あまり失礼な質問しないでよ」


『か、彼!?本当なん?腹話術みたいに声を変えるつもりじゃろ。その手には乗らんよ』


 腹話術って何よ。声が変えられるならとっくの昔に活用してる。

 只野さんに目で合図し、携帯電話を渡す。これで上手く誤魔化せるはず。


「もしもし、恋人の只野だ」


 ……っ、やっぱり無理かも。


『只野さん?はじめまして。まひるの母でございます』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る