62

 バッグに入れていた携帯電話が、ブーブー音を鳴らす。

 こんな時に、よりによって母からのメールだ。


 携帯電話を取り出し内容を確認する。


【まひる、恋人が本当にいるなら、話をさせてや。】


 何よ、いきなり。


【まひるが嘘をついとるって、父さんが言うんよ。】


 鋭いな。

 もう嘘を見抜かれてる。


 目の前には只野さん。

 溺れる者は藁をも掴む。


「あの……只野先生。お願いがあります。唐突ですが、私の恋人の振りをしていただけませんか?」


「この俺が君の恋人の振り?」


「両親が結婚結婚って、煩くて。お付き合いしてる人がいると、つい嘘をついてしまいました。そしたら、その人と話をさせろって……」


「成る程、俺の両親も生前は『早く結婚しろ』と煩く言っていたから、君の気持ちはよくわかる。ひとつ条件がある。嘘の片棒を担がせるなら、その代わりに今夜家に宿泊して欲しい」


 嘘の代償に、私のカラダを……!?


「断じて、性的な要求はしない」


 …っ、まじで?


 ますます怪しいんだけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る