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 彼女は慌てて店の外に飛び出す。俺は彼女に勧められた鮮魚コーナーに向かった。本日は魚の特売らしく、全品三割引きのようだ。


「いらっしゃいませ。お客さん渋いね。魚が安いよ安いよ」


「何が渋いんだ。俺が甘いか渋いか、見ただけでわかるのか」


「いえね、着流しだから。粋だと言いたかったんですよ。気を悪くしたならすみません。お詫びに鯛の尾頭付き半額にしますよ」


「半額?めでたいこともないのに、豪華な鯛の尾頭付きなど不要だ。半額になったとしても小鰯よりも高いだろう。その手には乗らないよ。俺はこの小鰯をもらう」


「はい、ありがとうございます。ではこちらの商品を半額にさせていただきます」


 パックの上からペタンと貼られた半額シールに、思わずほくそ笑む。

 親の残した預金を切り崩して生活をしている身。鯛など贅沢極まりない。晩酌には小鰯の天ぷらで十分だ。


 小鰯のパックをカゴに入れ、レジに向かう。精算を済ませ店を出ると、外では彼女と男性店員が、蟻の駆除をしていた。


 俺は彼女と友達だ。友達とはこのような場合、普通どんな態度をとるんだ?


 俺の目の前で、セーラー服姿の女子高生達が「バイバイ。またメールするね」と胸のあたりで小さく手を振り合っている。


 あれが友達のバイバイか。

 俺は女子高生を真似て、口角を引き上げ……


「バイバイ。またメールするね」と、手を振ると彼女が瞬時に固まった。


「……只野先生、ご来店ありがとうございました」


 そもそも俺は彼女のアドレスを知らない。

 どうやら、完全に失敗したようだ。

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