49
彼女はいつものように、卵の陳列棚で卵の補充をしている。
前世は鶏で確定だな。
「只野先生、お弁当半額になってますよ」
「俺はいつも弁当を買ってるわけじゃない」
いつものように語気を強めたことを反省する。
会話は上から目線ではなく、ソフトに……だよな。
「こう見えても自炊をしているんだよ。料理は楽しいからね」
こんな会話を口にするなんて世も末だ。自分で自分が気持ち悪い。
息苦しさから解放されたくて、着流しの衿を緩め首をポキポキ鳴らし左右に捻る。
「……只野先生は自炊されるんですね。私も自炊するんですよ。今日は鮮魚がお買い得です」
「鮮魚か。そんなに勧めるなら、行ってみるとするか」
そうではない。笑顔で『ありがとう』だ。
まずい、笑顔の作り方を忘れてしまった。頬をピクピクさせるものの痙攣しているようにしか見えないだろう。
「あ…あり」
ありがとうなんて、受賞以来、口にしたことがない。
「只野先生?蟻が何か?」
「あり、蟻が店の前に行列をなしていた。食料品を扱う店がアレでは気持ちが悪い。店員なら店の周辺も清潔にするべきだ」
「……すみません。今すぐ駆除します」
なんてことだ。
苦情を言うつもりではなかったのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます