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 彼女はいつものように、卵の陳列棚で卵の補充をしている。

 前世は鶏で確定だな。


「只野先生、お弁当半額になってますよ」


「俺はいつも弁当を買ってるわけじゃない」


 いつものように語気を強めたことを反省する。

 会話は上から目線ではなく、ソフトに……だよな。


「こう見えても自炊をしているんだよ。料理は楽しいからね」


 こんな会話を口にするなんて世も末だ。自分で自分が気持ち悪い。

 息苦しさから解放されたくて、着流しの衿を緩め首をポキポキ鳴らし左右に捻る。


「……只野先生は自炊されるんですね。私も自炊するんですよ。今日は鮮魚がお買い得です」


「鮮魚か。そんなに勧めるなら、行ってみるとするか」


 そうではない。笑顔で『ありがとう』だ。

 まずい、笑顔の作り方を忘れてしまった。頬をピクピクさせるものの痙攣しているようにしか見えないだろう。


「あ…あり」


 ありがとうなんて、受賞以来、口にしたことがない。


「只野先生?蟻が何か?」


「あり、蟻が店の前に行列をなしていた。食料品を扱う店がアレでは気持ちが悪い。店員なら店の周辺も清潔にするべきだ」


「……すみません。今すぐ駆除します」


 なんてことだ。

 苦情を言うつもりではなかったのに。

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