まひるside

35

 作家只野直人は、風変わりで偏屈な人。

 みやこからそう聞いてはいたが、その相手から告白されるとは思わなかった。


『ずっと気になっていた』

 そう言われた時、鼓動がトクンと跳ねた。


『ずっと好きだった』

 思わず持っていた卵を落とし、再び迷惑を掛けてしまう。お詫びに行ったのに、何をやってるんだろう。


 只野さんは私のことをずっと見ていたのかな?

 もし純粋にそう思ってくれているのなら、とても光栄だ。


 そう思ったのも束の間、只野さんは豹変した。


 いきなり『俺と寝ろ』と命令したり、『俺と付き合ってみないか』といったり、その異様な眼差しに戸惑い、思わず身の危険を感じて頬を叩いてしまった。


 如何なる状況でも、お客様を叩くなんて言語道断だよね。


 逆上した只野さんが暴挙に出たらどうしよう。怯える私の目の前で、只野さんは呆然としている。


 その時、ふと感じたんだ。

 この人、もしかしたら私と似ているのかも。


 偏屈というより、口下手で不器用で、対人関係が苦手なのでは?


 もしくは、本当に変態じみているかのどちらかだ。


 ◇


 午後六時過ぎ、フラリと入店してきた只野さんは、着流しでぐるぐると店内を歩く。


 その一風変わった風貌に、初めて遭遇したお客様は皆戸惑っていた。


 いや、はっきり言えばアブナイ人間だと、動物的直感を感じ避けて歩いている。

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