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無言のまま、二人でレジに並ぶ。
購入したのは同じ幕の内弁当だ。
レジの社員が彼女に話し掛ける。
「まひるちゃんお疲れ様」
「お先に失礼します」
下の名前はまひると言うのか。御園まひる、悪くない。
スーパーKAISEIを出ると、彼女は俺より距離をあけ後ろを歩く。男より数歩後ろを歩くなんて、今時珍しい奥ゆかしい女性だな。やはり小説の主人公は彼女しか考えられない。
立ち止まると、彼女も立ち止まった。俺はおもむろに振り返り、彼女に話を切り出す。
「君、彼と別れてくれないか?」
「彼?……あの只野様はスーパーのお客様です。ご迷惑をお掛けしたこと、只野様に手を上げたことは深くお詫び致しますが、お客様とプライベートでのお付き合いは出来ません」
「不祥事を詫びるというのなら、一度でいい、一緒に食事をしてくれ。それで全て水に流す」
「食事……ですか?」
「この幕の内弁当でも構わない」
俺はスーパーの袋を持ち上げ、彼女に見せる。
「わかりました。食事をご一緒すれば許して下さるのですね」
意外と簡単に彼女は俺との食事を承諾した。これは案外上手くいくかもしれない。
スーパーから俺の家は近い。彼女は男と同棲している。彼女の自宅に上がり込むことは不可能だ。
そうなると……
俺の屋敷しかないな。
これで彼女の生態を詳細に観察することができる。
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