32
「俺は多忙を極めているんだ。ゆっくりしている暇はない」
白いエプロン姿の販売員と揉めていると、後方から声がした。振り向くと私服姿の彼女が立っていた。
「……只野様?いらっしゃいませ。何か商品に問題でも?」
販売員はあからさまに『助かった』という顔をし、俺の前からそそくさと逃げ去る。
「君か、そう言えば君の名前を聞いていなかったな」
「御園と申します」
参考までに、もう一度彼女のリアクションを脳内にインプットしたい。
「ずっと気になっていた」
このセリフに女性は心を揺さぶられるのだ。現に彼女も……。
「そうですか、幕の内弁当は当店でも人気商品なんですよ」
いや、そうではない。
「ずっと好きだった」
「私も幕の内弁当は好きです。私も今夜は一人だから買って帰ろうかな。もしご希望ならレンジで温めましょうか?」
同じセリフでは、どうやらときめかないようだ。鈍感な彼女には全く伝わらない。
「問題ない」
いや、問題ある。
確か彼女は今『今夜は一人だから』と発言した。
すなわち、いつも一人ではないということになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます