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「俺は多忙を極めているんだ。ゆっくりしている暇はない」


 白いエプロン姿の販売員と揉めていると、後方から声がした。振り向くと私服姿の彼女が立っていた。


「……只野様?いらっしゃいませ。何か商品に問題でも?」


 販売員はあからさまに『助かった』という顔をし、俺の前からそそくさと逃げ去る。


「君か、そう言えば君の名前を聞いていなかったな」


「御園と申します」


 参考までに、もう一度彼女のリアクションを脳内にインプットしたい。


「ずっと気になっていた」


 このセリフに女性は心を揺さぶられるのだ。現に彼女も……。


「そうですか、幕の内弁当は当店でも人気商品なんですよ」


 いや、そうではない。


「ずっと好きだった」


「私も幕の内弁当は好きです。私も今夜は一人だから買って帰ろうかな。もしご希望ならレンジで温めましょうか?」


 同じセリフでは、どうやらときめかないようだ。鈍感な彼女には全く伝わらない。


「問題ない」


 いや、問題ある。

 確か彼女は今『今夜は一人だから』と発言した。


 すなわち、いつも一人ではないということになる。



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