27

 彼女が無類の卵好きだということはよくわかった。小説の参考までに彼女の恋愛感や男の好みが知りたい。


「君の好みは」


「SMですね。小さい方が好き」


 SM?小さい方がいいのか?人は見かけによらぬもの。初対面でSMはまずいだろう。いくら刺激的な恋の虜とはいえ、過激過ぎる。


 大体俺はノーマルだ。それにサイズはいたって普通だ。他人と比較したことはないが若干勝っている気もする。


 彼女の要望には応えられない。


「鞭や蝋燭を好むのか」


 彼女が一瞬ギョッとし、何故か蝋燭のように直立不動で固まっている。


「昨日のことは深くお詫び申し上げます。鞭とか……暴力は勘弁して下さい」


 暴力?

 俺が女に暴力?

 振るうわけがないだろう。


 今まで一度も人を殴ったことはない。人を殴ると自分の手が痛むからだ。


 【ストレートに告白すれば】桃色のアドバイスだ。どんな反応をするか試してみるか。


 しかし、あんなセリフで心を動かす女なんていないよ。


「ずっと気になっていた」


 彼女が目をぱちくりしている。


「ずっと好きだった」


 彼女の手から、卵の入ったビニール袋が落下する。グシャリと足元で卵の割れる音がした。はずみでビニール袋が破れ中からダラリと卵が垂れる。


 なんということだ。

 たった二言で彼女のハートを射止めたというのか?


「…すみません。すみません」


 彼女は熟れたトマトのように頬を真っ赤に染め、落下した卵を見て取り乱している。


 恋愛カウンセラー、桃色。

 ヤツは恋愛のスペシャリストかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る