21

 食事の途中、みやこの携帯が鳴った。


 みやこは電話に出ると、少し甘えた口調になる。


 相手はきっと男だ。


 電話の相手に表情は見えないのに、なんであんなに色っぽいのかな。


 みやこは話をしながら指先で皿のシチューを掬う。唇を少し開け、舌で指先についたクリームシチューを舐める。


「そんなに逢いたいの?それとも……私を抱きたい?」


 私の目の前で、そんなセリフがよく言えるな。しかも、食卓だよ。


 みやこは突然テーブルをバンッと叩く。


「ゲラのセリフはそうなってたはずよ。セリフを差し替えなくていいから。そんなことでいちいち電話しないで。あなたが担当者でしょう。いつまでも私を頼らないで校正は責任もってやりなさい。あとは宜しく」


 ……なんだ。

 仕事の話しか。


 ちょっとドキドキした。


 みやこは夜も……

 結構激しいから。


 みやこの声で、深夜目覚める時もある。


 『食欲と性欲は、生きていく上で不可欠。胃袋も体も満たされてこそ、いい仕事が出来る』これが、みやこの持論。


 あたしには……

 いまだに、その持論が理解出来ない。


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