まひるside

15

 最悪だ……。


 早退した私は、直ぐにシャワールームに飛び込む。


 クンクンと鼻をひくつかせると、プーンと卵の生臭い匂いがした。


 人材派遣会社に登録し職を転々とし、スーパーKAISEIに派遣されて半年が経過した。けれどミスばかりする私に、契約更新は望めないかも。


 世田谷駅前にあるマンション。1DKプラスS(サービスルーム)。現在私はここでルームメイトと共に暮らしている。ルームメイトは相武みやこ、同郷の幼なじみだ。


 ルームメイトといえば聞こえはいいが、現状は親からの仕送りをストップされて家賃が払えずアパートを追い出された私が、みやこのマンションに転がり込み、月二万の家賃で三畳のサービスルームを間借りしているに過ぎない。


 大学進学と同時に故郷を飛び出し上京。当時はまだ夢と希望に溢れていた。東京へ行けば夢は叶うと信じていたんだ。


 就活が始まり、出版社への就職を目指して何度もトライしたけど……全て撃沈。夢は夢でしかないと半ば諦めかける。


 そんな私を見かねて、出版社に興味などなかったみやこが、私を元気づけるために大手出版社セシリア社の採用試験に付き合ってくれた。みやこ曰く『自分は一次試験で惨敗する予定』だったらしい。


 だが、奇跡は起こる。一次試験、二次試験と難関を突破したのは、出版社に興味のないみやこの方だった。


 運命の神様は意地悪だ。こんなことなら、友達と一緒に採用試験なんて受けなければよかった。

 自分の才能のなさと運のなさに打ちのめされ、私はそこで夢を手放す。


 結局、私は大学卒業後も就職出来ず、人材派遣会社に登録し現在に至っている。



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