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「作家……?」
「作家だ。俺の名は只野直人、失礼」
彼女は俺の背後で男性店員に怒鳴られている。卵を頭から被り、顔を真っ赤にして、まるで卵かけご飯のようだ。
「…くっ……くく」
思わず声が漏れた。愉快だ。
この世に、あんなドジで冴えない女が存在するとは。
彼女に恋人はいるのだろうか?
彼女はどんな風に男と恋をするのだろう?
彼女はどんな顔で男に体を許す?
どんな顔で男に抱かれる?
作家としての興味。
これは欲望ではない。
『プロローグはインパクトのある刺激的なものにしないと』小生意気な編集者の言葉を思い出す。
刺激的か……。
ストーリーが浮かばないなら、疑似恋愛をすればいい。そうだ、その手があった。
タイトル
『生卵の女』いや違うな。『卵オンナ』『ネバネバのオンナ』、悪くない。だが、果たして恋愛小説に相応しいタイトルだろうか?
俺は赤ワインを掴み、レジで精算を済ませた。レジの店員と客が俺を異様な眼差しで見ている。
「あの…お客様。失礼ですが、頭に卵の殻が……」
「俺は作家の只野だ。問題ない」
俺はたった今、卵から頭を突き出した雛のように、恋愛小説作家として生まれ変わった。
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