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◇
セシリア社をあとにし、俺は最寄り駅から世田谷に向かう。
世田谷には先祖代々受け継いだ実家がある。母は三年前、父は二年前に相次いで亡くなり、一人息子の俺は古い屋敷と両親の残してくれた遺産全てを相続した。
お陰で多額の相続税を支払うはめになったが、小説家として未だ無収入の俺は、残った預金を切り崩し細々と生計を立てている。
世田谷駅前にあるスーパーKAISEI。俺の家から徒歩五分。入り口で赤いカゴを取り店内に入る。
食事の支度は一人分だから苦ではない。剪定をしていない木の生い茂る庭の片隅に家庭菜園を作り、季節の野菜を作っているから、食費も殆ど掛からない。
初めて俺の作品が、出版社に売れた。
まだ何も書いていないが、取り敢えず売れた。
今夜は祝杯だな。
たまには、牛肉でも買ってすき焼きでも作るとするか。
すき焼き用の食材と牛肉を掴みカゴに入れる。すき焼きといえば新鮮な卵だ。卵の棚に近付いて手を伸ばし、パックを取る。Lサイズにするか、Mサイズにするか若干迷う。
俺の隣で、脚立に上った女性店員が値札を貼り替えている。どうやらタイムサービスに突入したらしい。
一パック幾らになるんだ?
モタモタしていないで、早く貼ってくれよ。
「お客様、あわわ、危ない!!」
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