「どうも……。君は相変わらずだね。只野君まだ持ち込みしてるんだね。もうどこかの出版社の専属で、担当がついてると思ってた」


 相変わらず失敬な奴だな。


「芥川賞や直木賞のノミネートが発表されるたびに、君の名前が掲載されていないか探したものだ」


 完全に俺をバカにしてる。


 一樹は俺の原稿を数頁読み、パタンと閉じた。


 どうせ、ボツだと言いたいのだろう。


「これは預からせて下さい。只野君、実は今月大人の女性をターゲットにした紅ローズ文庫(べにろーず)が創刊されます」


「紅ローズ文庫?」


「略してベニロ」


 一樹は自信満々に胸を張り、にんまりと笑みを浮かべる。なにがベニロだ。何でも略せばいいってもんじゃない。


 大体、俺に恋愛小説は無縁だ。

 しかも女性向け。そんな得にもならない情報は必要ない。


「ちょうど才能豊かな作家を探していたところです。只野君は恋愛小説は書かないのかな」


 編集長という立場を利用した完全に上から目線。腕組みをし俺を見下したような一樹の眼差しに、つい口を滑らせる。


「恋愛小説?俺に書けないモノはない」


 正直恋愛小説など一度も書いたことはないが、一樹の挑戦的な態度に、思わず見栄を張った。

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