受賞してすでに八年か……。


 同世代の者は、大学卒業後、就職した会社で役職につきバリバリ仕事をしているはず。


 ――最後に立ち寄った出版社。


「只野?只野直人君だよね?」


 誰だよ、お前。

 偉そうに。やけに馴れ馴れしいな。


 そこにいたのは、俺に『偏屈只野』と異名をつけた張本人だった。


「セシリア社の一樹二太郎(かずきにたろう)です。ニタだよ、只野君懐かしいなぁ」


 ニタ?そんな愛称知らないよ。

 奴は俺に名刺を差し出す。

 名刺には『セシリア社編集部 編集長 一樹二太郎』と印刷されていた。


 コイツが…

 この出版社の編集部編集長!?


「いつか只野君と一緒に仕事がしたいと思っていたんだ」


 この俺と?

『偏屈只野』の烙印を押したくせに、どの面さげて言ってる。


「セシリア社の代表取締役社長は俺の父なんだ。父の職業柄、学生時代に君が受賞したことを教えてくれたんだよ」


 ……なるほど。

 父親が出版業界だから、地方新聞の公募で受賞した俺のことを知ってたのか。大学名も公表されていたから、息子と同じ大学で興味深かったのだろう。


 俺はコップの置かれたコースターを抜き取り、ボールペンで『作家、只野直人』と手書きし、一樹に差し出す。


「あいにく名刺は持ち合わせていない」




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