「刺激的な恋?」


「昔、地方新聞で受賞した経験がおありだとか。それ何年前ですか?はっきり申し上げて、作品を商業化したいならプロローグはインパクトのある刺激的なものにしないと。一瞬で読者の心を掴まないと、どんなに素晴らしい作品でも今の若い子は飛び付かないですよ」


「飛び付かなくて結構」


 俺はスクッと立ち上がる。

 自分の原稿を乱暴に掴み編集者を睨み付けた。


「刺激的な小説だと?この俺に官能小説を書けというのか」


 冗談は顔だけにしろ。小説のプロローグとお笑いタレントの掴みを一緒にするな。


「誰もそこまで言ってませんよ。こちらはアドバイスしたまで。今回は残念ながら採用出来ません。お引き取り下さい」


「こちらから願い下げだ」


 ーーその後、都内にある出版社を数社訪問したが、どの出版社からも相手にされず、原稿を読まれることもなく受付で門前払いされた。


 只野直人(ただのなおと)、三十歳。

 二十二歳で初めて執筆し、地方新聞の公募に応募し、見事大賞を受賞した経歴がある。


 紙面には大型新人作家誕生と持て囃され、当時大学生だった俺は企業の内定を辞退し、意気揚々と作家の道に進んだ。

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