第11話 言えないにゃん

「……それにしても、一真さんは何が目的なんだにゃん?」

「はて、目的とは?」


 話が一段落した所で、鰍は本題を切り出すにゃん。

 一真さんはとぼけたように笑うにゃん。


「一真さんがすばると一緒にいるのは本当に仕事のためだけなのかにゃん? その事を差し引いても、随分と良くしてくれているような気がするにゃん」

 ニコニコしながら雑談でもするように、できるだけ好意的に探りを入れてみるにゃん。


「まあ、それなりに下心もありますからね」

「随分素直だにゃん」

「だって、鰍さんもその辺が知りたかったんでしょう?」


 一真さんは思ったよりもあっさりと鰍の疑惑を肯定してきたにゃん。

 どんな思惑があるのかはわからないけれど、とりあえずここは乗っかっとくにゃん。

「なら話は早いにゃん。一真さんはすばるの事をどう思ってるのかにゃん?」


「魅力的だとは思いますよ。でも、僕としてはすばるさんと友人として良好な関係を結ぶだけでも十分な利益がありますから。それにそっちの方が都合が良いんです」


「どういう事だにゃん?」

 一真さんの言葉に、鰍は首を傾げるにゃん。


 友人としてだけでも十分一真さん側にメリットがある。という、一応嘘は言ってないけど本人の心情が入っていない答えで論点をずらそうとするのは予想してたにゃん。

 でも、その方が都合が良いって、どう言う事だにゃん?


「一応僕は今しずく嬢の所で働いていますが、それもいつまで続くかわかりませんし、その後の事を考えると、色々コネクションを作っておきたいんです」

 一真さんはニコニコと淀みなく答えるにゃん。


「つまり、すばるとの人脈が将来的に何か役に立つ算段でもあるのかにゃん?」

「そこまではわかりませんが、仲良くしておいて損はないだろうとは思ってます。鰍さんともそうです」

 鰍の目をじっと見て一真さんがニッコリと笑うにゃん。


「それで、ホントのところはどうなんだにゃん?」

「これが本音ですよ」

「じゃあ、今のところはそういう事にしておいてあげるにゃん」


 鰍はため息をついてワインに口を付けるにゃん。

 ……一真さん、さっきからそこそこ飲んでるはずなのに、全く酔ってないにゃん。


 鰍は結構お酒に強い方だから、一真さんが酔って気が緩んでる時に何か聞き出せないかと思ったけれど、一真さんもそれなりに強いなら意味無いにゃん。

 あんまり深酒するのも得策じゃないし、この辺はまた今度考えるとするにゃん。


 そんな事を考えながらふと一真さんの方を見たら、その視線がすばるに向かっている事に気づいたにゃん。

「……すばるさんはもう眠そうですけど、このまま寝かせるのは良くないんじゃないですか?」

 その言葉に釣られて横を見れば、すばるが幸せそうにこっくりこっくりと舟をこいでるにゃん。


「潰れるの早すぎにゃん! すばる! とにかく、最低限コンタクトだけは外すにゃん!」

 慌ててすばるの肩を掴んで軽くゆするにゃん。


 すばるのグラスを見ればいつの間にか空になってるにゃん。

 だとしてもそんなに強いお酒じゃないのにグラス一杯で潰れるって相当弱いにゃん。

 なんでダメって言ったのに続き飲んでるにゃん!


 コンタクトつけたまま寝るのはダメにゃん。

 というか、すばるの格好してるの全く抑止力になってないにゃん!


「うー……」

 すばるが眠そうに目をこすろうとするので、すばるの両手を掴んでそれを阻止するにゃん。

「目をこすっちゃダメにゃん! とりあえず、コンタクト外すにゃん! メイクは後で鰍がシートで落としてあげるから一旦目薬さしてコンタクト外すにゃん!」


 すばるは気だるげに目を開けたけど、しばらくぼんやりと虚ろな目でしばらく目をパチパチと瞬かせるにゃん。

「むー、自分でできるもん……」


 少しして、すばるはそう言い残すと、のろのろとした動作で立ち上がり、ふらふらしながらリビングを出て行ったにゃん。

 そのまま寝室に行ってベッドにダイブされても困るので、鰍も後を追いかけるにゃん。

 リビングを出ると、洗面所の方から水音がして、中を覗いてみると、すばるが手を洗ってたにゃん。


 それからティッシュで手を拭くと、すばるは洗面所の鏡の裏の棚からコンタクトケースと目薬を取り出すにゃん。


 目薬をさした後、すばるはコンタクトを外して、ケースに戻したにゃん。

 更に前髪をダッカールピンで留めて、化粧落としシートでメイクを落としていくにゃん。

 その後、前にすばるがめんどくさい時用と言っていたオールインワンジェルを顔になじませるにゃん。


 思った以上にしっかりしたケアをしたすばるは、そのまま寝室にのそのそと歩いて行ったにゃん。

 開きっぱなしになったドアから中を覗いてみれば、ベッドで力尽きたように仰向けで寝てるすばるの姿があったにゃん。


「なんというか、もう特に心配する事はなさそうですね」

「そうみたいだにゃん……」

 すぐ後ろで、同じようにすばるの様子を伺っていた一真さんの声がしたにゃん。


「それでは、そろそろこの辺でお開きにしましょうか」

「それが良いにゃん。キッシュ美味しかったにゃん」

「ありがとうございます。おやすみなさい」

「おやすみだにゃん」


 一真さんの提案に鰍は頷いて、そのまま玄関まで一真さんを見送るにゃん。

 玄関のドアが閉まった後、鰍もそろそろ寝る準備をする事にしたにゃん。


 お風呂はもうめんどくさいから明日の朝入るとして、歯磨きとメイク落としだけして、今日はもうさっさと寝るにゃん。

 そう考えた鰍は、リビングの残ったキッシュにラップだけかけて、そそくさと洗面所に向かうにゃん。


 鍵や火元、電気の確認も一通り終えて、後は寝巻きに着替えて寝るだけになった時、鰍はベッドに転がってるすばるに目をやったにゃん。


 ウィッグをつけたまま寝てるけど、そんな事したらウィッグに変な跡がついちゃうにゃん。

 それに服だって変な皺がつくにゃん。


 なんて事を考えながら寝ているすばるの顔を覗き込めば、幸せそうな顔で寝てるにゃん。

 ……さっきの様子からして、多分すばるは結構お酒が好きなんだにゃん。


 だけど弱いからすぐに酔っ払って、酔っ払ってるから我慢が効かなくなって更にお酒を飲んじゃうんだにゃん。

 あれだけ鰍がお酒を飲む時は気をつけろと言ったのにだにゃん。

 そう考えると、なんだか腹が立ったので、鰍はちょっと悪戯をする事にしたにゃん。


 ウィッグを外して、苦労しながら泥酔したすばるの服を全部脱がせるにゃん。

 鰍は隣で普通に寝巻きを着て寝るにゃん。

 明日の将晴の反応が楽しみだにゃん。


 翌日、案の定眼を覚まして混乱状態になったすばるに、昨日はとても面白いものが見れたと意味深に笑ったら、もう二度とお酒は飲まないと心に誓ってたにゃん。

 でも、実際酔っ払うと将晴は本当にガードがゆるゆるどころじゃなくなるので、それくらいでちょうど良いにゃん。


 ただ、鰍と二人だけの時は飲んでも良いって言ったのに、それが一番恐いと言われたのは心外だにゃん。




 最近、鰍は将晴から薦められて調子が良かったパックとか、やってもらって気持ちよかったフットマッサージとか、誰かに惚気る代わりに自分でやってる美容法としてこの前ラジオで何気なく話したにゃん。


 そしたらそれが想いの外好評で、今度WEB雑誌で美容コラムを書く事になったにゃん。

 鰍のファン層は大部分が男の人だったけど、これを期に女性ファンも増やしていきたいと伊藤さんは張り切ってたにゃん。


 ……言えないにゃん。

 大部分はすばるからの受け売りだったり、知識はあるけど、実際にはすばるにほとんどやってもらってるなんて言えないにゃん。

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おめでとう、鰍はアイドルに進化したにゃん! 和久井 透夏 @WakuiToka

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