一章エピローグ・あれぇ?

ドヤ顔で「一件落着かな!」とか言っていた恵。

その翌日、彼女は。


「学園の講堂を破壊した一之瀬さんには修繕費を耳揃えて払っていただきますから」


・・・落着などしていなかった。

むしろ人生が落着していた。


「ちょっ、ちょっと待って!私学園長室に呼ばれた時、転入生試験合格授与式って聞いたんだけどぉ!?」


わたわたと両手を振りながら叫ぶ恵。

それを後ろでエンリャクとウェイル、アオリアとエスカ、ガザニアが気まずそうに見守っていた。

ちなみに詰問しているのは椅子に座るメリディア学園長・・・ではなく教頭のアイギスである。


「それはそうでしょう。億単位の負債があると呼び出せば逃げるでしょう?」

「あーあはは、確かにねー億単位はねー・・・・・・・・・・オクタンイ?」


笑った顔のまま硬直する恵。

じわっとその眼に涙がたまっていき、かくかくとうしろを振り返ると。


「ふぇえええええガザニア君助けてぇええええええええ!!!」

「・・・そう言われてもな・・・」


ガザニアの足に飛びつき懇願を始めた。

涙目で縋る恵から目を逸らす。

メサイアの相手を任せた手前、半端ではない罪悪感はあるのだが金の問題だけはどうしようもない。

特にガザニアはお金が無くて学園に来た口なのだから。


そんな彼女の姿に哀れみを抱いたのか、メリディアが隣に立つアイギスの袖を引き、


「まぁまぁアイギス。いいじゃないか、これからの未来ある少女にそんな心の狭いことを言わなくても。

一之瀬の未来はこれからだ!次回作にご期待下さいって奴だなー」

「メ、メリディアさん・・・!私、一生この学校について行くよ!!」


終わっているのかいないのか分からないが、取り敢えずかばってくれたらしい学園長に歓喜の声を上げる恵。


「ほう?では講堂の修繕費は学園が払うと。では当然初めに削る予算は学園長の給料からですね。

というかそもそもですよ、メリディア学園長があれだけ自信満々に結界の効力を力説したから私共職員は手を出さなかったのですよ?結界が壊れなければ全焼することは無かったでしょうに。と言うことはこの事件の責任の半分以上はメリディア学園長にあるということで


「さあ、一之瀬。耳揃えて修繕費用払えよー。はい、かいさーん」

「メリディアさぁん!?」


アイギスの詰問により即座に手のひらを返したメリディア。

そんなやり取りにため息をつき、ガザニアがアイギスに尋ねる。


「はぁ。なら聞くが、今回の騒ぎは何だったんだ?聞いたところによると教員の不正まで合ったらしいじゃないか。それに関して説明もなく謝罪もなく、一之瀬にだけ金を負担させるのは筋違いじゃないのか?そもそも、燃やしたのはメサイアだろ?」

「それはあなた方には関係ありません。不正と言うのがメサイアの参戦の事を言っているのなら、それは不正ではない、というのが学園としての解答です。一応の手続きは踏んでいますから」

「・・・大した学園だな」


うんざりしているようで、どこか慣れた様子のガザニア。

しかし、アイギスはさらに続けた。


「・・・と、世間にはそう言わなければならないんですよ。今からの話は他言無用です。いいですね?」


全員が頷いたのを確認すると、事の顛末を簡単に話し始めた。


「簡単に言えば、今回の出来事はエンジール家のアオリアさんの権力を欲する者たちの策略でした。

私もメリディア学園長すら知らないうちに教員の中にまでその一人が紛れ込み不正を働いていたようです。サミエル=ロアという女です」

「ふん、あの女ですのね。道理でメサイアが動けたはずですわ。まさかライバル同士で手を組むとは思いませんでしたけど」

「それで?そいつはどうなったんだ?」

「捕まえましたよ。試験中に不審な伝達魔法を使用していたところをね」


アイギスは簡単に言っているが。

サミエルとメサイアは同じような実力を持つ者同士である。

学園の教頭ともなるとやはり腕に覚えもあるらしい、ガザニアがそう考えていると恵がアオリアに尋ねた。


「それで結局さ、エスカちゃんはどうなったのさ?」

「アオリア様の説得のおかげでエンジール家の養子としてまた戻りましたよ」

「ふふっ、よかった。仲直りもできたみたいだし!後は・・・お金かぁ。働いて返すしかないね・・・」

「大丈夫、恵ちゃん。僕も君の為に働いてお金を貯めるよ。そして将来は結婚だね」

「うん、結婚はヤダ・・・」


億単位の負債を抱えてなお断られたウェイルは血の涙を流していたがそれは兎も角。


「ま、講堂のお金ぐらいエンジール家が出しますわよ。身内の不始末ともいえる訳ですしね」

「ほんとっ!?でもいいのかな、私の為に・・・」

「初めからそのつもりでしたけれど・・・恵さんは『私を助ける対価としてお金貰った』なんて思われたくないでしょう?」

「んー、そうだね。友達を助けてお金受け取るのはちょっとなぁ」

「だからこれは身内の不始末の為のお金ですわ。それでよろしくて?」


おっ、じゃあ新しい抱き枕も欲しいんだが、などと言ってアイギスにハリセンで叩かれるメリディアなどの一幕を見つつ、六人は学園長室を出る。

彼女たちの姿と声が聞こえなくなったところでアイギスが口を開いた。


「・・・良かったんですか?あの事を伝えなくて」

「ま、困るのは学園の方だ。彼女が知ることは無いだろうよ」


ぺラリと、転入届を眺める二人。

ウェイルとエンリャク、アオリアとエスカ、ガザニアと来て・・・一之瀬恵の転入届だけは真っ白だった。


「それにしても転入するっていうのに書類も何も持って来ない学生がいるとは思いませんでしたけどね」

「こればっかりは同意だなー。彼女は何を根拠に学園に入れると思ったのやら」


転入試験というのは、実は2次選考まである長丁場だ。

1次選考では書類審査があり、それに通った者だけがあの3日間の試験に挑むことが出来る。

しかし恵にはそれがない。だというのにも関わらず何故彼女は入学を許可されたのか。


「そろそろ教えてくれてもいいんじゃないですか?一之瀬さんを試すような真似したのも、上からの通達で入学させるように言われたからなのでしょう?貴族などには見えませんが・・・後ろ盾は何処ですか?」

「・・・ふー、どこだと思うね?」

「さあ。この国の最大勢力と言えばルヴァンダルかカステルですが・・・まさかそこから?」

「いや。もっと上だよ」

「・・・上?」


ルヴァンダルやカステルは貴族の中においても狂った権力を持つ勢力だ。

それより上なんて、貴族にはそんなもの・・・。

そこまで考えて。

アイギスは血の気が引いて行くのを感じた。


「・・・いや、まさか・・・」

「そうだね、私も話を聞いた時はまさかと思ったよ。

ソレイン王国の、最高権力。王族の第一王子、マキナ・ソレイン・アルティベート=リアから話が来た時はね。

王族の後ろ盾を持つ少女に反逆罪で貴族から転落した少年、更には瑞獣ずいじゅうの狐の落ちこぼれの3人組とは恐れ入る。

期待しようじゃないか。この格差しかない学園に、新しい革命の風を吹かせてくれることをね」




「おかえりです、恵さん。どうでした、合格授与式はってわわわ!」


学園長室から戻り、待っていてくれた天狐に抱き着き耳をモフる恵。


「それが聞いてよ~。危うく私、若い身空で多重債務者になるところだったんだよ!闇金だよ、借金だよ、地下1050年行きだよ!」

「え?えぇっと、取り敢えずお疲れさまです?」


話が飲み込めない天狐の慰めで元気が出たらしい。

恵は天狐から離れ、皆に向き直る。


「あ、紹介が遅れたけどこの子が天狐ちゃんです!伝達魔法を使ってくれたり家庭科室から金髪のかつらを手に入れることが出来たのは天狐ちゃんのおかげだよ」

「よ、よろしくお願いしますっ!」


突然の紹介に驚きながらも元気にお辞儀する天狐にエンリャクは頷く。


「うんうん、めっちゃいい子ってのがひしひしと伝わってくるな。

性格が悪いガザニアと頭がない恵とは大違いだぜ」

「ほっとけ」

「あるよ!!ちょっとだけ!!」

「ちょっとなんですね・・・」


そんなやり取りをしていると、チャイムの音が響く。


「おっと、あと五分で始業か。これから各自教室に行くんだよな」

「そうですわね。ま、七組までありますし皆ばらばらでしょうけれど」

「大丈夫だよ!」


アオリアの言葉を恵が元気よく否定する。


「確かにクラスはばらけちゃうかもだけど、『縁』は切れないから!」

「ふん、一之瀬にしてはいいことを言うな。初日に遅刻してきたこと、俺は忘れないぞ」

「ちょっ、それは忘れてガザニア君!」

「アオリア様と少しの間離れることになっても・・・それは致し方、ない、事、です。うぐぐぐ・・・」

「ふふっ、大丈夫ですわよ。すぐ会える距離じゃないですの」

「ですね。私も恵さんと同じ教室が良かったですけど、寮も同じですし!」

「うおおおおおお!僕は毎回休憩時間に恵ちゃんに会いに行くぞおおお!!」

「いや行くな、ストーカーロン毛とかシャレなんねーぞ。存在で逮捕だ逮捕」

「いるだけで!?」


姦しい彼女たちも、時間に追われ。

それぞれの教室に向かっていく。

しかしその表情にさみしさは無いようだった。



少し迷いながら一人で「七組」と書かれた教室の前に来た恵。

やはりこの瞬間はいつでも緊張するものだ。

なんていうの?知らない世界に飛び込むっていうの?あ、それ今私してるとこじゃん。

自分で自分にツッコミを入れながら扉をあける。

するとそこには・・・。


金髪に白い礼装の青年に狐耳の小さな女の子、銀髪ロン毛の青年、自称スキンヘッドのハゲに、ウェーブがかかった金髪碧眼の少女とそれに付き従う銀髪赤目の女の子。


「「「・・・あれぇ?」」」


・・・どうやら。

彼女たちが思う以上にこの『縁』は簡単には切れないものらしかった。

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日陰少女、はじめました。 Hurricane(そよ風) @hurricane-soyokaze

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