ヴェオ

ジュリウス

1. ヴェオと名乗る少女

 今日も平和に活気あふれる広間を眺めながら、のんびりと椅子に腰かけ水を飲む。酒もいいが、今は目の前に座る奴のせいで飲むわけにもいかない。

 つい先日まで村の近くに巣くっていた大狼の群れを村や隣の村の狩人と協力し、何日もかけ追い詰め、生きた心地のしない日々を過ごしていたのに、つい昨日から今度は子供の世話だ。

 目の前で俺が皮袋の水を飲むのをみて、見よう見まねのたどたどしい手で同じように皮袋を口にする少女の名前はヴェオ。長い髪を首の後ろで一本にした、身長は俺の胸くらいだろうか。15、16くらいの少女だ。

 昨日の明け方近く唐突に村に現れ、しかもどこで手に入れたのかぼろぼろの布を服のように身に纏っていた。言葉は喋れるようだし理解はしているようなのだが、今までどうやって生きてきたのか不思議なほどに世間知らずだった。スプーンもフォークも知らないどころか、パンの食べ方も水の飲み方も知らないとは驚くしかなかった。とにかくいつまでも布切れを着せておく(着てるというより、引っかかってるに近かった)わけにもいかなので、俺の持ってる服の中でも一番小さ目な、それでも膝まであるコートを着せてやったところ気に入ってくれたらしい。

 そんなこんなで今日になり、俺はヴェオをこれからどうするか悩んでいた。

 ここまで世間知らずというか、常識知らずでぼろの布切れを身に纏ってたあたり、まともな親か環境で育ってはいないだろう。どっかの野生動物に育てられた並みだぞ。

 しばらくは俺が預かろうか。それともひとまず服を買いそろえて着せてから放り出して知らん顔しておこうか。

 どちらにせよ関わってしまった以上、何もしないと何かあった時俺まで被害がくる。

「となると、まずは服か……」

「……?」

 ヴェオは基本無言だが、言っていることは理解してくれている。

 先ほど常識しらずと言ったが、人は服を着ることくらい理解しているらしい。昨日もコートを着せた際抵抗や質問はなかった。

 俺が席を立ち、歩き出すとそれに続いてヴェオも一歩後ろも黙ってついてくる。なんだかカモの親子みたいだ。

広間では出店が野菜や果物しか売っていないので無視。目的はその先にある古着屋だ。

「あれも売れるのか?」

 店に向かう途中、ヴェオが唐突に出店の一つを指さした。指さした先には山菜が並んでいた。

 恐らくこの村へたどり着く前に森で見かけたのだろうか。だとしたら、山で自生してるものをお金で取引してるのに違和感を覚えたのだろう。

 まぁこいつのことだ、もしかしたらもっと単純なことだったかも知れない。

「基本的に食べられるものは売れるぞ。ただ、質の上下で値段も変わるし、売るつもりなら俺のところに持って来れば売ってやるよ」

 ヴェオはいつも通りの無表情でじっと山菜を見て、次に果物を見て、最後に野菜を、順番にしっかりと眺めていた。なんとなく言ったつもりなのだが、もしかしたら本当に俺のところに持ってくるかもしれない。

 今のヴェオの格好はコート1枚のみなのでそんなものよりもまず服を買い与えてやりたい。

「とにかくまずは服だ」

「……」

 逃げるように早歩きになってしまったが、ヴェオはちゃんとついてきてくれた。無言のヴェオを後ろに連れてるおかげで少し視線も感じた。

 今度は視線から逃げるために古着屋に駆け込み、店員に数着丈夫なのを見繕うように頼む。子供の服は俺にはわからないし、ヴェオもわかんないだろうし。

 店員が必死にヴェオと話を合わせようと話題を振るも、ヴェオは相槌を打つだけで会話にならず店員涙目である。

 しばらくして涙目の店員が、俺から見ても良いのかってくらい上質なものをそこそこの値段で集めてくれた。ヴェオに惚れたか、それもと村で顔の広い俺がいたからか。

 服を受け取り家に戻り、ヴェオに着せる。コートは気に入ったのか、それとも着ないといけないと思ったのか。上下に服を着たうえでまた先ほどのコートを着ていた。

 ちょうど昼もいい時間になり、そのまま家で飯とした。

 野菜を適当に切ってパンにはさみ、適当に肉を焼いてパンにはさみ、適当な昼食ができた。適当な野菜と肉がパンに挟まっている適当パン。

 皿に乗せてさっきまでヴェオがいた部屋まで来たのだが、ヴェオの姿が見当たらない。どこいった。

「ヴェオー?」

 皿をとりあえず机に置き、探しに出る。ふらふらと唐突にこの村にきた以上、ふらふらとどこかへ帰っていくのもあるだろう。

 若干の心さみしさと共に家の裏へ出ると、そこであっさりとヴェオが見つかった。

 見れば、左右の手にそれぞれリンゴが握られていた。この辺にリンゴ農家はなかったはずなので、野生のを今採ってきたのだろう。

「飯」

「ああ……うん」

 昼飯なら俺が作ってしまったんだが。

 しょうがないのでリンゴは切って皿に盛りつけておいた。

 二人で椅子に座り、パンをほおばる。適当な味がした。

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ヴェオ ジュリウス @Julius

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