10.
斯くして――僕は校内の怪談調査に乗り出すことと相成った。
駆け引きの末、現場へは基本的に僕が一人で向かい、調査の過程で不都合が生じた場合に生徒会に対応して貰う――という方針で決着した。その僕の進言に対し、針見先輩は「そうですね、
*
「何から何までありがとうございます、ええ、ありがとうございます」
「いえいえ、僕も半ば好きでやっていることですので……」
それでは――と、席を立とうとしたところで、肘が机に引っかかってしまった。途端、限界まで不安定になっていた書類の山が崩れ落ちた。
「ああっ、すいません」
「おいおい、何やってんだよ
僕は慌てて床に散らばった書類の束を拾い上げようとその場に屈んだ。
――――が。
そこでふと、手に取ろうとしたプリントの表紙が目に留まった。
『超心理領域開発システム ―― 四月期 中間報告書 ―― 』
『① 霊的スポットにおける集団意識の変調実験 ―― ―― 』
『―― ―― ―― ―――― ――霊視についての一般考察 』
…………?
……何だろう、これは。
それはほんの一瞬、文面の一部が目に入った程度の時間のことであったが、
「あっ。それは何でもないのです。ええ、何でもないのです」
と、即座に針見先輩が散乱するプリントを拾いまとめてしまったので、それらが結局何の書類だったのかまでは分からなかった。
*
「それでは暮樫さん、お任せしてしまって恐縮ですが、何卒、ええ、重ねて何卒、よろしくお願いいたしますね」
「はい、上手くやれるように努力しますよ」
「ええ。……あ、暮樫さん、あと最後にもう一つ――」
立ち去ろうとしてまた呼び止められた。
まだ何かあるのだろうか。
「最近、学校周辺で不審な人物が徘徊しているらしいという情報があります。大丈夫だとは思いますが、念の為、じゅうぶんにお気をつけくださいね」
先輩の穏やかな笑顔は、やはり、あまり困っているふうには見えなかった。
*
「なあ、これでよかったのか、或人」
生徒会室を出てすぐ、布津が訊ねてきた。
「なんだい、布津。良いも悪いも、何も問題ないだろう」
「それは、表面的にはそうかもしれないがな……」
「だいたい、あそこまで頼まれたら断れないよ」
「ううむ……」
低く唸る布津。
どうにも納得がいかないらしい。
「でもさ、布津――ありがとう」
「ん。何かお礼を言われるようなことをしたか?」
「さっきの会長との一幕さ、あれ、僕のために怒ってくれたのだろう?」
何に怒っていたのかは検討がつかないけど。
「……そんなんじゃねえよ」
「あれ、そうなのかい?」
「言っただろう、俺だって
「言鳥?」
どうしてそこで妹の名前が出て来るのか。
「まあ、布津がそう言うなら」
「ああ、そういうことにしておいてくれ」
内心を白状すると、布津の言いたいことも分からなくはないのだ。
怪異現象の解決なんて、叔父や妹ならば何かしらの術や技を行使して対処するのだろうけれど――僕はそういう訳にもいかない。何しろ怪異現象に遭遇することそのものが叶わないのだから。
今回の怪談調査。やるからには出来得る限りのことをしたい。
妹のようにスマートにはいかないだろう。だけど、これも彼女の〈世界〉を知るための一助だと、そう思うことにしたい。
「さて。それじゃあひとつ、妖怪退治と行こうじゃないか――」
*
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