7.



 五筒井いづついさんが布津ふつに語った「屋上の幽霊」の目撃譚。

 それは、この高校に伝わる〝学校の怪談〟のうちのひとつであった。

 五筒井さんのただならぬ様相を受けて、布津は翌日、彼女が体験した話を僕のところへ持ってきた。僕はその日のうちに五筒井さんにも直接話を聞いたのだが、それと時を同じくして、似通った内容の怪異遭遇の噂が、校内で幾つも囁かれるようになっていた――。


 ――と、それが一昨日までの流れであった。


 更にその後も噂は数と種類を増やして広まり続け、今に至るという経緯であった。




                  *



「それで五筒井さん、頼んでいたものは――」


 貸出カウンターの前で、僕は五筒井さんに確認を取る。


「ん。ちゃんと用意してある」


 五筒井さんはカウンターの下から大きなバインダーファイルを取り出した。それは結構な厚みのある、青いファイルであった。表紙には『図書だより/バックナンバー』と書かれたシールが貼ってあった。


「それは……?」


 と、布津が覗き込む。


「うん。図書委員会で月に一回発行している図書だよりの、そのバックナンバーをまとめたファイル。毎月図書室の前の掲示板に貼り出してあるの、布津も知ってるでしょ?」

「ああ、あれか」


 図書だよりは、図書委員が毎月持ち回りで記事を書いていた。基本的に毎号一枚ものの壁新聞形式で、お勧めの本や書籍関連の特集記事が主の地味なものだが、僕は月初めに更新されるそれを秘かに楽しみにしていた。

 というのも――。


「それは俺も分かるが……、或人あると、図書だよりが今回の話に何の関係があるんだ?」

「よく訊いてくれたね、布津! それが大アリなんだよね!」

「……お前のその妙なテンションはどうも不安になる」


 布津が少し眉を顰めた。


「実は去年、入学していくらもしない頃に、僕もこの高校に〝学校の怪談〟があるらしいことを聞いてさ。現状伝わっている怪談については一通り把握しておこうと思って、校内の話を知っていそうな人に、何人か聞いてみようとしたんだけど……」

「そんなことしてたのか」

「さっきも言ったけれども、やっぱり生の声って大事じゃん?」

「まあ、な」

「だけどそれが……」

「うむ? 何か問題でもあったのか?」

「ああいや。そのことを言鳥ことりに話したら、『何勝手なことしてるの!?』って怒られちゃってさあ。なんか、言鳥の手の届かないところで怪異関連のことで他人とかかわるなってことらしくて……」

「ああ――言鳥ちゃんならそう言うか。お前んの事情も大変だよな……」


 布津は含みありげに共感を示した。


「で、暮樫くれがし君。これとこれと……これ、頼まれた時に言ってた特集号」


 あらかじめ用意していたのだろう、五筒井さんがファイルを開き、挟まっていた該当物を引き出す。


「ああ。ありがとう、五筒井さん。手間取らせて申し訳ないね」

「ううん。どの号がどの特集を組んでたのかは、一応、簡易リストに一覧になってるから。私はナンバーを照らし合わせて抜き出しただけ」


 そう応えた五筒井さんの手元には、三枚のA3紙が並べられていた。どれも古びた紙で、やや日焼けしているのが見て取れる。

 それらは、過去に発行された図書だより――僕が今日、図書室で確認したかったものであった




                  *



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