5.
昼食を終え、僕と
読者諸賢は僕たちの学校の構造なぞに興味はないかもしれないが、この高校の食堂は校舎一階の西の端、図書室は三階北面東側にある。そのうえ食堂最寄りの階段は校舎の南面に配されている。位置的にはほぼ対極に当たり、目的地としては周り遠い感は否めない。
*
昼休みの図書室は、酷くがらんとしていた。
静寂。先程までいた食堂の喧騒が別世界のことのように思える。
図書室に入ると正面、受付カウンターは無人であった。室内を覗いてみても本棚の間に生徒が数人が立つのが見えるばかり――その中の一人、数冊の本を抱えた女子へ向けて、布津が軽く声を掛ける。
「よう。
佐波、と呼ばれたその女子はすぐに布津に気づき、とっとっとっと、こちらへ近づいてきた。
「んっ。トモヒサ、待ってた」
布津のほうを軽く見上げて応えた彼女の名は、
ちんまりとした容姿がハムスター的小動物を思わせる。
「悪い、図書委員の仕事中だったか」
「ううん、大丈夫。私が呼び出したようなものだし」
「そうか」
「うん」
五筒井さんと布津とは、なんでも幼稚園から小学校、そして中学、高校と同じ学校に通う仲で、家もごく近しく、日常的にご近所付き合いのある関係なのだという。何処の少女漫画の関係か。
「ごめんね五筒井さん、タイミングよくなかったかな」
「問題ない。
「ありがとう。そう言ってもらえると、僕も気が軽くなるよ」
「うん」
五筒井さんと僕は去年も今年も別々のクラスであったが、布津を介してこうしてよく話をした。必然、オカルト絡みの話をする機会も多く、彼女もまた僕のそういった事情をよく知る人物の一人であった。
五筒井さんはどちらかと言えば物静かな性格で、あまり口数の多いほうではなかった。しかしそんな彼女の態度に僕はむしろ好感を抱いていた。誰に対してもフラットな雰囲気に何処か妹と似た印象を受けた、というのもあったかもしれない。
「それで佐波、例の幽霊を見た時の話なんだが――」
布津がさっそく本題を切り出す。
「あ、うん。それなんだけどね」
と、五筒井さんも話を始めようとする。
「えっと……図書館で話しててうるさくないかな……」
僕が周囲を気にすると、
「大丈夫。どうせ人もあまりいないし。今は先生も来てないから」
との返事であった。
図書委員がそう言うであれば、まあ、大丈夫だということにしておこう。
「ん。それじゃ二人とも、取り敢えずカウンターの前の席まで来てもらえる?」
*
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