3.
布津がわざわざそういった前置きをする時は、先ず間違いなく怪異妖怪関係の話題であるということは経験上分かっていた。と言うよりも、布津に「何か怪異な話があった時は是非報告してくれ」と頼んでいたのは、他でもない僕自身であった。
普通はそのようなことを頼まれても、扱いに困るのが常人の反応であろう。それでも少し日が空くと律儀にそういった話を持ってきてくれるのが、布津智久という男であり、それが何だかんだ僕らの交友関係を持続させている要因のひとつでもあった。
*
始業式の朝。教室で持ち掛けられた布津の相談――それはまさしく、〝学校の怪談〟に関する話であった。
斯くして、昨年から引き続き同じクラスになった僕と布津は「また一年間よろしく」という紋切り型な閑談もそこそこに、新学期早々日常の怪異に挑むことになったのである――いや、正しくは日常の怪異の話を聞くことに、であろうか。
僕たちの通う高校には学校の怪談、七不思議と呼ばれる類の話が伝わっていた。それらは「トイレの花子さん」だとか「夜に目が光る肖像画」だとか、所謂全国何処の学校にでもあるような(……という形容句が殆ど意味を成さない程度にはそれが何処の学校にでもある訳ではないことは、僕も理解しているつもりなのだけれど)、兎に角そういった類の話ばかりで、一般の生徒からは従来あまり注目されることはなく、また生徒によって知っている内容もまちまちであった。
妹からは「兄さんは私のいないところで勝手なことしないで」と釘を刺されていたこともあり(まったく彼女は心配性である)、怪談話に関して、僕は積極的に在校生に話を聞くことは避けてきた。
――が。
僕が聞き込みをする以前に、少なくとも昨年の一年間では、幾つかあるらしい怪談話はかなり断片的にしか語られていなかった。僕が観察していた限り、この学校にどのような怪談があり、どれほどの数が伝わっているのか、深く気に留める者も話題にする者もないようであった。事実、僕もこの高校に在籍していて、それら怪談の体験談や目撃情報が聞こえてきたことは、ほぼゼロに近かったのである。
しかし、今年の四月に入ってから状況は一変していた。
校内で実際に怪談的現象に遭遇した、という生徒が続出し始めたのである。
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