2.



「……まあ、なんにせよ俺だって言鳥ことりちゃんには世話になってるし、出来ることなら力になってやりたいとは思うよ」


 布津ふつは気を取り直したふうにして言った。

 しみじみとしたその台詞には、親しみと少しの同情が感じられた。


「そうだろうそうだろう」

「だからと言ってなあ……」


 そう漏らした布津は、まだ何か言いたげに渋い顔をして見せた。

 そんな顔をして食べていると食事メシが不味くなるのではないだろうかと思う。


「でもさ――言鳥の話を聞くに、校庭の桜の木には如何にもな怪談と一緒に、願いを叶えるおまじない的なお話も伝わってるらしいんだよね」

「そうらしいな」

「あれはちょっと盲点だったなあ。何事もネガティブな面があればポジティブな面もある……視点を変えると、語られる内容もおのずと違ってくるものだね」

「あ、ああ。そうだな……?」

「僕もこの学校に伝わる噂や言い伝えについてはいろいろ読んだつもりだったけど、本やら新聞やらで調べただけじゃリアルは分からないもんだねえ」

「うむ……?」

「やっぱりこういう形のないものの本質を知るには現場の生の声に耳を傾けてみなきゃならないなあと、あらためてそう思ったよ……って、現場の生徒のひとりである僕がこんなことを言うのもおかしな話か。あははっ」

「ちょっと待ってくれ、何の話だ」


 とがめるかのような布津の言葉に僕は、


「何とはなんだい――だから、

「…………ああ、そうか。そう、だったな」


 そこで布津は明らかに面食らったように目を見開いていたが、それもほんのわずかな間のことで、すぐに落ち着きを取り戻していた。此処でも反論されてはさすがにどうしようかと思っていたが、杞憂なようであった。

 既に、昼休みの半分近くが過ぎようとしていた。



                  *


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