3.屋上の幽霊

1.



「――――で、俺は何処から突っ込めばいい」


 それは、妹が謎の赤い液体にまみれて帰った翌日。

 高校の昼休み、学生食堂。

 昼食時の会話において発せられた。

 しばし黙って話を聞いていた布津ふつ智久ともひさが、うんざりした様子で言ったのだった。


「何処からって言われてもな……」

「まずだな」


 と、布津が言う。


「死体だの血が噴き出すだのって……朝からなんつー話をしてるんだよ、お前たち兄妹は」 

「い、いや、だって布津。これも怪異への理解を深める一環であって……」

「百歩譲ってそれは別にしたとしてもだ。それでもおかしいだろうよ、全体的に」

「……全体的に?」

「ああ。いちいちツッコミどころを挙げていたら、切りがないくらいだ」


 そこで布津は一度ため息を吐いて目尻を押さえる。

 その表情は些か疲れて見えた。

 ……寝不足なのだろうか?



                  *



 布津智久。

 僕、暮樫或人くれがしあるとの高校における数少ない友人。他のクラスメイトと比べてもこれといった特徴の少ない顔を持つ男。平均的男子高校生顔というものがあるとすれば、布津のような感じになるではないか、とさえ思う。

 そして、布津の疲れた仕草も此処半年ですっかり見慣れた一コマとなった感があった。


「でもでもでもさ」

「なんだ」

「新入生の妹にこの学校の情報を教えてあげるのは、兄としても先輩としても至極当然な行為だと思わないかい?」

「そりゃあ、そうかもしれないが」


 布津が定食のコロッケを口に運びながら応える。


「それともなにかい、布津は僕が妹を学校を案内することに異議でもあるのかい」

「何もそうは言ってないだろう」

「――ああでもそうだね、僕がなんでもかんでも教えてあげるのではなくて、敢えて言鳥ことりが自分から知っていくようにすべきという考えもありやもしれないな……。うん、あまり束縛しすぎるのもどうかとも言うし……。ああっ、だけれども!」

「おい或人」

「だけども、言鳥は基本他人にドライだからね……。そこが可愛いところでもあるのだけど……。新しい環境でうまくやっていけているのか……。やはり、此処は兄としてある程度はオリエンテーリングしてやるべきなのでは……」

「おいって」

「でも、言鳥には自由で伸び伸びとした学園生活を送ってほしいというのもあるし……。ああっ! ねえ布津、僕は兄としてどうすればいいんだろう……!」

「お前は本当に気持ち悪いな」


 布津の冷たい視線が僕の心に突き刺さる。

 世間の目は僕たち兄妹にいつも厳しい。


「或人はルックスは悪くないのにな……。言動が極端に振り切ってんだよな……」

「なんだい、褒めても何も出ないよ」

「褒めてねえよ……」

「あ、このおかずのから揚げ、ひとつあげようか?」

「いや要らんよ。っていうか、何か出してんじゃねえか」



                  *



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