4.
「
桜舞う春の通学路。城址公園の並木が今年も見事な花を咲かせている。
慌ただしく朝食を済ませた僕は、妹と学校へ向かって公園沿いの道を歩いていた。
小柄な妹と僕とでは、肩を並べると頭ひとつと少しくらいの身長差があった。
僕は隣を歩く妹――言鳥に、続けて語り掛ける。
「校庭の桜の木の下には死体が埋まっている。だから、無闇に掘り返してはいけない。不用意に近づいてはいけない――特に毎年、春のこの時期になると先輩や教師が新入生に話して聞かせる光景がそこ此処で見られて――」
「……私は校庭の古い桜の木の下で愛を誓い合ったカップルは永遠に結ばれる、と聞いたけれど」
言鳥がぶっきらぼうに応えた。
なるほど、そういう噂もあるのか。
「桜の樹の下には屍体が埋まっている――これは元は小説の一文に過ぎなかった。だけどいつしかこのインパクトのあるフレーズが独り歩きして、しばしば現実の桜の木の下にも死体が――それも人間の死体が埋まっているのだという都市伝説があちこちで語られていたりする訳だ」
「……ありがちなお話ね」
「そう、ありがちな話だよね。実際、桜の木を伐採しようとしたら祟りがあった、それはその木の根元に死体が埋まっているからだ! ……なんて話はありふれた怪談になっている。芸能人がテレビやラジオで話していたりもするし。我が校の校庭の桜の木に関する噂話もそういったバリエーションのひとつと考えられるんだけど……」
「でも兄さん、それは別に桜の木に限った話じゃないんじゃない?」
「勿論そうだね。というより、御神木を伐ろうとして神仏の祟りがあったとか、そういう社伝や説話のほうが、時系列的には先行する話なのだろうと思う」
「ふうん」
「ああ。それとうちの高校の桜には、木の幹や枝を傷つけるとそこから真っ赤な血が噴き出す――なんて話もあったっけ」
「…………私は桜の木の幹に誰にも見られずに自分の名前と好きな人の名前を彫るとその二人は結ばれる、と聞いたけれど」
おや、その話も初耳だ。
どうも僕と言鳥とでは情報の収集源が異なっているようである。
やはり怪異の世界に身を置いていると見えてくるものも違ってくるのだろうか?
しかし、怪異一切が見えない僕にその真偽を見極めるすべはないのであった。
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