3.




 僕は生来、妹の語るオカルティックな世界の話を聞くのが好きで、また彼女のことを理解するためにその手の方面の知識に対して飽くなき探求を続けてきた。

 しかし、僕の努力に反してその成果は遅々として向上の兆しを見せることはなかった。僕としては至って謙虚な姿勢で臨んでいたつもりなのだが……。


 例えば――――。


 怪異妖怪の話題を振ったとき、だいたいの場合において返ってくるのは冷笑的な態度が殆どであった。


 曰く、「なんだお前オバケなんか信じてるのか」

 曰く、「そんなもんいるわけないだろ、馬鹿にするな」


 また、多少の興味を向けてくれる相手でも会話の末尾には、


「で、けっきょく妖怪って本当にいるのかな?」


 という台詞が付くのが慣例であった。

 まあ、話を聞くどころか、僕の背後の辺りを見ては途端に青ざめて逃げ去ってしまうようなケースもままあったが……あれがなんだったのかは、今もはっきりしていない。



                  *



 そもそも僕に妖怪がというお題を問われても詮のないことである。何しろ僕自身にはそういった存在は感知することが出来ないのだから。

 

 妹が常日頃見ている怪異の世界がいったいどういった性質のものであるのか――僕にとって、ただそれだけが解明されるべき課題であったのである。だけれども、世の多くの人間に対しては、オバケが本当にいるのか、妖怪と呼ばれるものの正体はなんであるのかと、そういうことのほうがもっぱら耳目を集めた。


 それが近頃になって、その怪異探求の試みに飛躍的な進展が見られるようになったのは、ひとえに友人たちのお陰であった。取り分け、クラスメイトの布津ふつ智久ともひさが聞き手、並びに話の仲介役となってくれていることは大きな助けとなっていて、本当にありがたいことだった。幾ら感謝してもし足りることはない。

 とまれ。

 僕と布津との出会いの話は、また別の機会に譲るとして――今は妹について語ることにしよう。



                  *



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