2.あるかもしれない学校の怪談

1.プロローグ

1.



無いにもあるにもそんなことはもう問題ではない。我々はオバケはどうでもいるものと思った人が、昔は大いにあり、今でも少しはある理由が、判らないので困っているだけである。


                        (柳田国男『妖怪談義』より)



                  *



 僕の妹はあまり笑うことがない。妹はもともと感情を大きく露わにするタイプではなかったが、その傾向は小学校、そして中学へと学年を上がるにつれ、次第に度合いを増していったと思い返す。

 かつて僕たち兄妹が学校に居づらさを覚えていたのは事実であった。

 しかしそれと同時に、一見して無感動な妹の容貌は、はたからすると彼女が自ら周囲との壁を生み出しているようにも見えたであろうし、そうした環境が妹をまた孤立させていた。


 時は過ぎて現在――――。


 高校生になった彼女はクールで美しい少女へと成長した。

 整った顔立ち。切れ長で澄んだ瞳。

 だが妹が背負う、大人びて何処か冷めた雰囲気は自然と級友らを遠ざけた。


 それが、僕の妹。

 愛すべきたった一人の僕の妹だ。



 名前を、暮樫くれがし言鳥ことりと云う。



                  *


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