03-それが絶望的でも

 黒い物体に運ばれる夢を見た。

 幾ら足掻いても、止まらず。逃げようとすれば、足を掴まれて引き摺られる。それでも反抗すると、暴行を受ける。自分がそうされたわけではないのに、そうなるのだと、まるでそれが常識だという様に理解できた。

 それが怖くて、夢の中で私は、目を瞑って運ばれていた。


 でも、最後には崖にいた。私は一人で、いつの間にか底が見えない崖の間際で眠っていた。ゾッとして立ち上がると、後ろには、黒い化け物がいた。

 すぐに分かった。目の前にいるのが、私を運んだ黒い物体なのだと。


 分かったら、更に怖くなった。知識は恐怖を倍増させていた。


 そんな時、風が吹いた。油断していた私は、体勢を崩して崖から落ちる。

 夢の中なのに、妙にリアルに感じた。

 臓器が浮き上がる様な気持ち悪さ。終わりの見えない穴。そして、確定した死の未来。何もかもがリアルで、私は泣いた。


 泣いた。


 涙が、綺麗に見えた。






「──────っ!? ……ッ、はぁっ、はぁっ……ゆ……夢……?」


 飛び起きる様にして目が覚めて、まず初めに思った事は、夢が現実ではなかったということへの安堵だった。

 飛び跳ねんばかりに急ぎ足で鼓動する胸を、手で宥めながら、同時に乱れた息も整える。

 頬を何かが伝うのを感じた。拭うとそれは、涙だった。泣いていたのだと理解すると同時に、そんなに涙脆かったかとも思った。きっと、それ程に恐ろしい夢だったのだろう。だがもう、肝心の夢は朧げだった。


 夢を見て泣いたのは、ソリアにとってこれで二度目だった。



 ふとソリアは視線をずらす。

 周りには化け物……エクス達が“ヴィラン”と呼んでいた奴らが大勢いた。だが、ヴィラン達は襲いかかるわけではなく、ただそこに佇んでいる。

 まるでソリアを監視している様だった。

 それから間もなく、見覚えのあるヴィランが来る。


「……“悪戯好きの化け物”」


 ソリアはスッと視線を細め、“悪戯好き”を睨む。だが、“悪戯好き”は一切表情を変えずに、感情の一片も現さず、ただ無表情にソリアを見た。

“悪戯好き”のその目は、直視してはならないものだと理解するのに、ソリアは然程時間はかからなかった。

 暗黒。感情を読み取ることが出来ず、更には自分の何もかもが見透かされてしまいそうな目。底なし沼の底を探しているかの様に錯覚すらした。


 ソリアは硬直し、唾を飲み込んだ。

 それを見計らってか、“悪戯好き”はゆっくりとソリアに近付く。


「っ、な、何よ……来ないで……」


 一歩。また一歩と、近付いてくる。それに従って、ソリアもゆっくりと後退していく。だが、ソリアは背後にもヴィランがいることを思い出す。振り返れば、ヴィランの壁はすぐ目の前だった。直後、後退する事ができないと分かると、ソリアは“悪戯好き”を強く睨みつける。


 だが、結局“悪戯好き”は止まることなく、遂にソリアの目と鼻の先まで来たところで、漸くその歩みを止めた。

 足を動かせば、蹴ることができる。そんな距離だ。だが、そうとわかっていながらも、ソリアの体は既に微動だにしなかった。

“悪戯好き”が近付くに連れて、より鮮明に見えてしまうその目を見てしまった。それが原因だった。


 そして、その目の奥底に、


 姿


「い、いやぁぁぁ──────────っ!」


 ◇


 何も出来なかった。

 今までにヴィランに負けたことなど、ほとんどない。ましてや、一杯食わされたことなど、ないのではないか。

 それが彼らの士気を大きく下げたことは、一目瞭然だった。

 だが、諦めるわけにはいかない。その思いが彼らの足を持ち上げる。


 それでも、やはり“悪戯好きの化け物”は一枚上手いちまいうわてだった。

 ヴィラン達の二、三体程の小さなグループを複数作り、それをまったく別の方向に動かしたのだ。十を軽く超える程に分岐したヴィラン達の中から、ソリアを攫ったヴィランを見つけるのは容易ではない。

 更に、砂埃を上げやすい地面が、更にヴィランを隠す。


 そしてそれは、遂に彼らの足を、地面にへばりつかせた。






「……くそっ」


 エクスらしからぬ発言に、三人は耳を傾けながらも、だが誰も返答はしなかった。

 三人も、同じ気持ちなのだ。エクスの声は、きっと彼ら全員の思いを代弁したものだったのだろう。


 レイナは地面にへたり込み、シェインもその隣に腰を下ろした。

 タオは苛立ち気味に槍を地面に突き刺し、それに寄りかかるようにして立っていた。

 そしてエクスは、放心したように見上げた。雲に覆われている、空を。


「……レイナ、タオ、シェイン……休んだら、すぐに行動しよう。ソリアが心配だよ……早く、行かなきゃ……いや、やっぱり……僕一人ででも行く。休んでていいから、皆は」


 エクスが口を開いたかと思えば、口から出てくるのは阿呆らしい言葉だけだった。タオは溜息を吐き、言った。


「……何言ってんだ、坊主。一人で行っても、勝てねぇだろ」

「知らないよ、そんなのどうでもいい。助けなきゃ、助けなきゃ駄目なんだ──だって、ヴィランに攫われたんだよ!? もし大変な目にあってたら、どうするの!?」

「あん? じゃあなんだ? 一人で行って二人で死んでくるのか?」

「違う、そうじゃない、僕はソリアを助けに……」


 シェインが何かを叫んだ様な気がした。

 直後、エクスの頬には衝撃と痛みが走る。そしてそれが、殴られたのだと理解するまでに、数秒を要した。

 エクスは体勢を崩し、尻餅を付く形となる。

 何をするんだと叫ぼうとして、止めた。


「ふざけんな! そんなに死にたいのか!? 一人じゃ勝てねぇだろうが! 例えどれだけ戦っても、一人じゃ必ず限界がある……そうだと分かってても、行くのか!? お前は!」

「別に僕はどうなったっていい! せめてソリアだけでも助けられるなら、それで──


 タオの表情からして、触れてはいけない線に触れたのだと、感情が高ぶったエクスでさえ気付いた。

 今にもはち切れそうなその表情を前に、だがエクスは止まらずに、対抗しようとする。


 数秒の沈黙。


 そして遂に両者の線がはち切れ、怒号が舞おうとした──その時だった。



「全く、無様ね」



 冷水よりも、氷よりも、冷たいその言葉は、エクスとタオの意識を大きく逸らす。そしてそこにいた者を見て、誰もが硬直した。

 エクスが、呟くような声でその者の名を呼んだ。


「……カオス、シンデレラ」

「正解。私はカオスシンデレラ……それにしても、無様。ええとっても無様。私を倒したとは思えないわね。仲間割れ、死にたがりと喧嘩っ早い二人、その喧嘩を傍観しか出来ない女二人。ふふ、とっても無様で惨めで哀れ。──笑えちゃう」

「なんだと!?」


 タオはその言葉に耐えられずに声を荒らげる。だがエクスは同じ様にカオスシンデレラに怒りの矛先を向けることはできなかった。相手がカオステラーにしろ、女性だったから、という理由もあっただろう。だが、それだけではない。

 確かに、カオスシンデレラの言葉は、嘘ではないからだ。


 カオスシンデレラの氷の様な言葉は、エクスの怒りを冷まし、自分の行いを、自分で見返せる程にはエクスを冷静にさせた。


「笑う以外にどうすればいいというのよ。目的を見失いかけていたというのに。……そんなあなた達が惨めで哀れで阿呆らしくて馬鹿らしくて、流石に可哀想に思えたから……チャンスを与えに来たのよ」


 そんなにボロクソ言わなくとも、と誰もが思った。だが、それを言える程に状況が良いわけでもない。結果、誰もがカオスシンデレラの言葉に、静かに耳を傾けることしか出来なかった。


 それから間もなく、カオスシンデレラの背後に黒い霧が立ち込める。それは、初めにカオスシンデレラが現れた時にも出ていたものだった。

 そしてその霧から姿を現したのは、数々のカオステラー達。

 エクス達が倒していったカオステラーもいたが、見たことのないカオステラーも現れていた。

 その筆頭としてか、カオスシンデレラが口を開く。


「ここは墓場、或いは語られぬ影のセカイ。物語の、たむろするセカイ。あの女ソリアを救う必要など、ない」

「そんな筈……!」


 反論したのは、エクスだ。だが、カオスシンデレラの視線を受け、最後まで発声させる事なく、口を噤んだ。


「それでも救おうと言うなら、ここから去ろうと言うなら」


 カオスシンデレラは、不敵に、笑った。



 ──何を言っているのか、分からなかった。


 当然ながら、エクス達はそれを嘘だと考えた。

「そんなの嘘よ、ありえない」とレイナがそれに反論している。だが、その言葉はエクスの耳には届かなかった。エクスには、それはないと思いながらも、同時に、それが本当の様にも思えていたからだ。


 理由がない訳ではない。


「私達のは空白の書、物語を与えられなかった本! それが、物語に導かれるなんて──

「待って、レイナ。僕達がこの想区に来た時、空白の書に文字が浮かんだ。カオスシンデレラの言っている事と、この初めのことは繋がっている様に思える……んだ」

「……ぐ、た、確かに、そうだけど……」


 言い淀むレイナを横目に、カオスシンデレラがエクスに笑いかけた。


「正解よ。でも、一つだけ訂正する部分があるわ」

「……え?」

「ここは、正確には想区ではないわ。墓場がメインの想区でも、語られないセカイがメインの想区でもない。墓場、本来の意味よ」


 またも想像を超える情報に、エクスの脳はパンク気味だった。「はぁ!?」とタオは素っ頓狂な声を上げた。

 四人が頭を抱えているのを見て、カオスシンデレラは助ける気などさらさらないとばかりに、背を向けようとした。


「じゃあ、ヒントは教えたわ。これで私達は──」

「待って!」


 だが、それをエクスは止める。面倒くさそうな、それでいて面白がっている様な表情でカオスシンデレラは振り向く。


「……あと、一つだけ、教えて」

「内容にもよるけど……まぁいいわ」

「何で、僕達を……助けようとするの……? それが分からないんだ」


 するとカオスシンデレラは、はぁ、と溜息をついた。


「言ったでしょう? と」

「いや、それとこれとは関係ないでしょ?」

「……運命ものがたりはね、関係ないものが繋がってできていたりもするのよ?」


 それが答えだったのだろう。

 カオスシンデレラは、質問を拒絶する様に完全に背を向け、後ろに歩き出す。見覚えのあるカオステラー、見覚えのない初見のカオステラーもそれに続いて一人、また一人と背を向けていく。

 それからすぐ、彼らの体は黒い霧となって消えていった。


 だがエクスには、どこか今までの消え方とは違う様に思えた。


 そして全員が消えていくまで、エクス達は一言も発することはできなかった。

 残ったのは、ただ呆然と立ち尽くすエクス達だけだった。






 それから少し経った頃、エクス達はこれからの行動を決めようとしていた。流石にこのままではいけないと、レイナとシェインが動き出したからだ。

 エクスとタオは、一度冷水をかけられてからというもの、もう一度喧嘩を始めようとは思えていなかった。


 だが、予想外のことは早速起こっていた。


「まずは敵がどこにいったかだけど、皆はどこにいったと思う……って、分かる筈ないんだけど……」

「姉御、姉御、実は私、勘なんですけどどこにいったか予想できてるんです」

「おぉ、シェイン、お前もか。実は俺もだ」

「え? 皆も? 実は私もなのよ。エクスは?」

「……僕も、一つだけ」


 分かる筈がない敵の居場所が、何故だか分からないのだが予想できていたのだ。それも、四人全員が。


「じ、じゃあ、一斉にその答えを言ってみたら……どうかな」

「そうね、じゃあ、い、いくわよ……せ、せーのっ」


 レイナの掛け声に続いて、それぞれが己の考えを打ち明ける。


「「「「南東の方」」」」


 そして、その全員の答えが完全に一致した。同時に、全員が指をさした方向も完全に一致していた。

 四人は顔を合わせ、ありえないという様に頭を振る。指をさした方向までもが同じになるとは、この想区──改め、世界に限って言えば、ありえなかった。何故ならこの世界にきてから、正確な方角を知らないからだ。


 嘘だという言葉が頭の中を埋め尽くそうとしていた。

 だが。『物語は導いてくれる』というカオスシンデレラの言葉が、さらなる検証を促した。


「じゃあ、敵の数は……せっ、せーのっ」

「「「「十」」」」


 唖然。


「じ、じゃあ……ここからの距離は、せっ、せ、せーのっ」

「「「「約三キロ」」」」


 唖然。


「て、敵の種類は全部で……せーのっ」

「「「「ブギーヴィラン、ナイトヴィラン、メガ・ヴィラン!」」」」


 唖然。

 遂に彼らはカオスシンデレラの言葉を信じざる得なくなった。いや、カオスシンデレラの言葉以外に真実味がなくなってしまっていた。

 足の力が抜けて、地面にへたり込む。

 あはは、と乾いた笑い声しか出なかった。

 運命という奇妙なものを実感して、だがどうにも信じきれていなかった。


 レイナが空を見上げながら、問う。


「これから、どうする?」


 即答したのは、エクスだった。


「ソリアをに行く」

「…………ですね。こんなにも運命に導かれてしまっては、断る方が申し訳ないというものです」

「はぁ……今回は坊主に賛成だ」


 レイナは三人のそれぞれの目を見て、頷く。


「じゃあ、行きましょうか」


 それ以上の言葉はいらなかった。



 ◇



『「はあっ!」』


 掛け声とともに、歩みを止めることなく放たれたエクスの美しさを持つ一撃が、ブギーヴィランを切り裂いた。



 荒野を疾走する影が、四つある。

 向かうは南東方向。目的はソリアを救い出すために。一片の迷いもなく疾走するは、タオファミリー。

 今は、全員が“栞”を使ってヒーローの力を得ていた。

 それも、今回は攻撃重視だ。


 レイナとシェインは、いつもなら後衛向きのヒーローとなっている。レイナは魔導書を持ち、シェインは弓と杖を使い分けながら戦っていた。

 だが、今回は二人も前衛向きのヒーローとなっている。

 二人は互いに、片手剣・大剣アタッカーにも適性がある。今回は二人してアタッカーとなっていた。


 レイナは、ウサギを追いかけて不思議世界に迷い込んだ、かの有名なアリスとなっている。乳白色のような髪に、青の服を着て疾走する。好奇心旺盛さは、いつでもワクワクした様なその表情に表れている。

 好奇心猫をも殺す……だがきっと彼女は、猫よりもよっぽど賢く、素早く、したたかであるのは間違いない。


「てやぁっ!」


 右から飛び上がり、襲いかかってきたブギーヴィランの一撃を、アリスが逸らす


 シェインは、鬼ヶ島に住む鬼の姫、鬼姫だ。シェインの奥の手であり、お気に入りだ。とても相性がいい。黒が基調の和服、帯に彼岸花を差し、アリスと共に疾走する。その速さは、和服であるにも関わらずアリスに追いつかんとしていた。額には、鬼を象徴するツノが一対、生えている。

 優しげな表情をした鬼で、世間一般での──即ち人間から見た──鬼の姿とは違った性格をしている。


「──っ!」


 アリスの一撃により、空中で身動きが取れなくなった敵に、すかさず鬼姫が攻撃する。そして、消滅。


 直後、アリスが鬼姫の真横を高速で通り過ぎ、鬼姫の背後を狙ったナイトヴィランを“ダッシュソード”で切り裂く。


 そして、何事もなかったかの様に走り始める。



 普段から前衛アタッカーをしている二人、エクスとタオは、今も平常運転だ。だが、二人のコンビネーションは普段よりも冴え渡っている様に見えた。


 タオは、今朝にも見せた野獣ラ・ベット。チーム一の怪力となって、時折現れるメガ・ヴィランを粉砕する。

 野獣ラ・ベットは本来は小心者だ。メガ・ヴィランと対峙して、平常運転とはいかない。それを補うのが、タオの役目だ。タオの話術、気合の入れ方は、どうやら野獣ラ・ベットに上手く“はまった”らしく、本来の怪力を十全に発揮することができていた。


「はぁぁぁあああッッ!」


 一撃でブギーヴィランを三体纏めて吹き飛ばし、横から襲いかかるブギーヴィランを盾で防ぎながらも、一撃目から繋げた攻撃で吹き飛ばす。

 連撃は終わらない。そこから繋がる袈裟懸けがナイトヴィランを槌で


 エクスは、茶道を「明鏡止水」と呼ばれる程にまで極めながら、同時に剣の道にも通ずる者、風切 草之庵を身に纏う。

 緑の和服にマフラーが特徴的な男だ。その剣技は美しく、剣技というよりは剣舞という方が合っているだろう。誰よりも速くブギーヴィランを切り裂いたのは、彼だ。

 そして──


『……エクス殿、この戦いが終わったら、またいつもの様に瓦屋で団子を、食べましょう』

「草之庵さんん!? そう言う危ないセリフしぼうふらぐ的なやつはダメですよ!?」

『む、そうでしたか……おっと、敵です。ここは私達に任せて……タオさん、後は任せましたよ。大丈夫です、すぐに追いつきます』

「やめて!? 一体どれほどの恨みを持っているの!? そこまでして殺しにくるなんて、そこらのカオステラーよりもよっぽど怖いよぅぅ!!」


 ──この戦場で、最も陽気な者。


 だが、彼の言動が緊張をほぐしているのも事実であり、更には、彼こそがこの戦場で最も活躍している、というのも、事実だ。

 だからこそ、エクスでさえもはっきりとやめろとは言えないのだ。エクスの性格上、そもそも言い辛いだけかも知れないが。



 鬼姫と同じく和服を着ているが、その速度は鬼姫とは比べものにならなかった。いや、違う。比べ物にならないほどに速く見えているだけだ。

 剣舞、いや、その言葉でさえも足りない。

 その舞は、ゆっくりと、誰よりも速く動く。


『手応えがありませんねー』


 ただ、剣を振るっているだけ。

 それだけでも、相手は避けることさえ出来ないでいる。


 ラ・ベットが槌を水平に振るう。正面にいたナイトヴィランが腹から両断される。更にはその勢いのまま体を捻り、槌の移動方向を変え、奥にいたナイトヴィランの頭を押し潰す、打ち下ろしに繋げた。


 そうして二体のナイトヴィランが倒されている内に、草之庵はその剣でブギーヴィランを五体、ナイトヴィランを一体、メガ・ヴィランの足を破壊していた。

 がくりと倒れるメガ・ヴィランの顔面を破壊したのは、打ち下ろしから再度繋げられた、ラ・ベットの打ち上げの一撃だった。



 一見順調に見えるが、実はそうも言ってられる暇はなかった。


『あーもう! レイナ! いつになったら辿り着けるのよ!』

「ごめんねアリス……でも、確実に数は減ってきているわ、もう少しよ!」


 既に彼らの体力は限界に近かった。



 斬撃、斬撃、斬撃────剣と剣、それぞれの正義がぶつかり合ったその戦場は、今までの比ではない程に多くのヴィランがいた。

 少なくとも、視界がヴィランで埋まる程には。


『うぅ、シェイン、殿……鬼と言えど、この数は辛いものがあるな……』


『タオ殿ォ! あと敵は如何程いかほどか!』

「大丈夫だッ、あと百は切った」

『ぬぅぅぅぅうううううおおおおおおおおおおお……』


『れいなぁ……そろそろ……限界……』


 鬼姫、ラ・ベット、アリスの動きが目に見えて鈍くなる。

 だがそれに対して、エクスと草之庵の動きはまだ冴え渡っていた。


「そろそろかな、レイナ!」


 その時、エクスの勘がある者の出現を予測する。

 それは同時に、予測を超え、現実となる。運命に導かれた彼らの思考は、運命に操られていると言ってもいいだろう。だからこそ、次の物語を予測できる。


「分かったわ……!」


 エクスの言葉と、それにつられてやってきた自分の勘が、レイナ、タオ、シェインの三人の目を変化させた。




 来る。




 そしてやって来たのは────ソリアだ。


 どこからどう見ても、一切変わらないソリアであり──同時に、その変わらなさに異質さを感じさせる、ソリアだ。


 そして彼らは完全に理解する。


 彼女がカオステラーなのだと。

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