無の年齢
物事に始まりがあったとなると何事でも「それはいつから」と一応問う。
いつのことと言ったって、いまから何年前の出来事かを聞いて、なんとかイメージしようと試みるだけのこと。
時間というものには物差しがない。
地球は何十億年前に原型が出来、つぎに海山が形成され、やがて海に生命が生まれ海に留まるものもいれば陸に上がったものもいる。あるいは空に舞い上がった種族も現れた。
やがて恐竜が現れ、それを恐竜時代と称し、何十億年間か続いたが大きな隕石が落ちてきて大爆発が起こりそれが原因で地上が灼熱状態になったとか、あるいは爆発で大量に舞い上がった塵埃が地球まるごと成層圏を覆いつくし、それが原因で地上は零下の気温になり恐竜は全滅し氷河期の発端になったとか諸説ある。
それはともかく恐竜が絶滅してくれたおかげで人類の祖先である哺乳類が誕生し繁栄し始めたという解釈は頷いてしまうところがある。
この地球に関しても、また太陽や太陽系や他の星々についても始まり、つまり芽生えた時期はおおよその見当はつくらしい。そのついた見当の表し方はいまのところは、今から何年前という表現以外には方法はないようだ。だが将来においては、そうではない、発想のまったく違う、つまり今から遡ること何年ではない表記の仕方が考え出されるような予感がする。
それがどんな表記なのかぜんぜん想像はつかないが、ただ言えることは、それが可能ということは圧倒的な深い宇宙の理解を得て初めて為せる業であろう。
ただしそれは個々の星々、この地球や太陽や太陽系や銀河系の誕生とかにおいてであって、宇宙の年齢に応用できるわけではない。ことわるまでもなく。人間には永遠に知ることのできない事柄だからだ。
つまり、宇宙の始まりについてはストップウォッチをいつ押せばいいのか。そして、いつ止めればいいのか、それはいつまでたっても分りようがない気がするのだ。
それとも、もしかしたら年齢なるものが宇宙においては存在しないという可能性もあろうか。つまり年齢とは我々人間にとって日常の便宜上のものであるように、同様に実は地球の年齢も他の星々の年齢も便宜上という意味の延長線上にあるのではないだろうか。
すると年齢がないとは何を意味することになるか。もしかしたら「時間」というものは実はありはしないのだが、それでは日常生活の上で不便が生じるので「時間」は「ある」ということにした。「ある」という慣習がいつの間にか出来てしまい、ついには疑いのない事実になってしまったのではないのか。
とにかく時間というものはそうたやすく解き明かせるものではなさそうだ。
宇宙そのものに時間が存在しないという立場に立てば当然この地球にも時間は存在しない。
しかし現に人間を含めすべての生き物、植物は生まれやがて死んでいく有様を目の当たりにしているのは確かだ。地球もそう。何億年か後には消滅するという予測も間違いないだろう。何億年「後」というんだから時間がある確たる証拠ではないのか、と思えなくもない。
あるいは一時間で3Km歩ける人が、2時間歩けば6Kmになる。これも立派な証拠ではないのか、時間というものがあるということの。とか他にも実感としての例は、いくらでも挙げられよう。
しかし、そういう事象が果たして確かな証拠といえるだろうか。どんな事象も、様子が様変わり変化をしているのは間違いないが、
つまりは「その様である」という現象を捉えているだけのことであって、時間を立証できていることに果たしてなっているのだろうか。
例えば一時間経過したことを、つまり一時間という単位をどうやって実感、認識しているかというと、それは時計の針が一目盛り移動したことをもってである。時計のなかった時代は、お寺の撞く鐘を頼りにしていただろう。
さて、おしまいに時間の始まりとされるビッグバンに関する考察をしてみたい。
「無」から生まれた宇宙に年齢があるのなら、「無」においてビッグバンが発生するための何かの「機」が熟したのだろうか。そうすると「無」にも「機」が熟すまでの年齢が必要になる。「無」に年齢があるのならこんどは「無」の始まりを問わねばなるまい。
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