第2話 ウィンナーは、タコさんです!

ぶろろろろろろ。

がちゃん。

ぶろろろろろろ。


郵便配達のバイクの音。

それに郵便物投下の音。

加えて再び、郵便配達のバイクの音。


この一連の流れが意味する答えは一つしかない。

勝つか、負けるか。

慈悲という言葉が存在しない世界が始まった。


私は、先生に向けて拳をゆっくりと構える。


「「じゃんけんぽぉぉん!」」


先生と私の声がそろう。

私の手はチョキ。

先生の手はパー。

そこですかさずハリセンを振りかざし、先生の頭頂部へと振り下ろす。


パァン!


実に気持ちのいい破裂音。

一瞬の差で間に合わなかった先生の回覧板での防御。

実に悔しそうな顔である。


勝った。


アイムウィンナー。


先生、おとなしく郵便物を取ってくるのだ。

この世界は弱肉強食。

敗者はすべからく勝者に従わなければならないのである。


郵便物を取りに玄関へ向かった先生にハンカチを振ると、私は冷蔵庫へと向かった。

何故かって?

決まっている。

ウィンナーが食べたくなったのだ。


この世のウィンナーは、全てタコさんにするべきだと思う。

焼くときに少しずつ脚を開いてくるあの愛らしさ。

口に入れたときにのあの香ばしい味わい。

素晴らしい。

美味しいし、可愛いし、まさに才色兼備。

違うか。


ウィンナーというのは、ウィンナー・ソーセージの略である。

ウィーン風ソーセージという意味だ。


いや、おかしくないか。

ウィンナー。

ソーセージを省略したらダメだろう。

いったいウィーン風の何なのか。


そんな省略をするせいでウィンナー・コーヒーが被害を受けているのだ。

お洒落なコーヒーのはずなのに、ソーセージの入ったコーヒーだという風評被害にさらされている。

それもこれも、全てウィンナー・ソーセージをウィンナーと略した誰かのせいである。

本当に迷惑な話だ。


タコさんウィンナーもその被害者の一人だ。


『たこさん ウィーン風』


意味が分からない。

ヨーロッパにおけるたこは、悪魔の象徴なのだ。

この、愛らしいたこさんウィンナーが、悪魔。


嗚呼。


ウィンナー・ソーセージをウィンナーと略したばっかりに、タコさんウィンナーは悪魔の烙印を押されてしまった。


そもそも、ウィーンに海はない。

地上を這いまわる、タコさんウィンナーの姿をした悪魔。


……それはそれでいいかもしれない。

ついうっかり何かの契約をしてしまいそうだ。


いや、私は何の話をしているのだ。

タコさんウィンナーは悪魔ではない。

どちらかというと精霊の部類である。

ウィンナーをタコさんの形に刻むというのは、一つの祈りなのだ。


私は、タコさんウィンナーの精霊に祈りを捧げるべく、冷蔵庫の扉へと手を伸ばした。


一瞬、違和感を感じた。

私が今まで過ごしてきた日常と、何かが違う。

何かがおかしい。


しかし、それも一瞬だった。

すぐにその違和感は消え去り、私はそのまま冷蔵庫の扉を開けた。




結論から言おう。


祈りは届かなかった。


私は、今まで味わったことのないほどの絶望を、この身に受けることになる。

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犯人は、パンダです! 無糖 @oishii_mutoh

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