エピローグ
第24話
酒場『レレミア』は、いつにも増して活気に満ちていた。
「――以上、リリィ嬢の踊りでしたーーっ!」
司会役の声に乗り、吹き抜け二階建て構造の酒場は、盛大な拍手に包まれる。ステージの真ん中で恭しく頭を下げていたリリィは、ほんのりと上気した顔を上げた。健康的な四肢を球のような汗粒と宝石で煌びやかに輝かせていた彼女だが、周りの聴衆の反応の方が眩しいと、嬉しそうに目元を潤めている。
「どうだったスレイ?」
ステージが終わって。リリィはスレイ、ノロナが飲んでいたテーブル席に戻ってきた。
「皆リリィの踊りに酔いしれてたよ。言ったろ? 現金で欲深いのが冒険者なんだ。誰もリリィが悪魔だろうと気にしないって。こういうのは普段の行いがモノを言うんだよ。教会みたいに――」
「うん、皆の反応を気にしてたのは事実だけど、それは自分の目で確認したのー。そうじゃなくて、スレイの感想を聞いてるの。それとそんなドヤ顔であんまりベタな反応をするなら、周りの人に頼んでボコってもらうよ?」
「やめろマジでそれは死ぬ」
スレイはリリィに縋りついて許しを請うた。教会の信徒が悪魔に縋りつく図が出来上がる。周りで既に立ち上がる準備を始めていた聴衆からは、溜飲が下がった酒が美味いとドッと笑いが起きる。
――あれから。教会は組織としては即座に解体され、町の権力の中枢の握る評議会からも排除された。
建物自体は残っている。シスターなど下で懸命に働いていた構成員も職を追われるようなことはなく、現在でも懸命に働いている。
信仰自体は町に根付いており、神の救済はまだまだ人々の間に必要だった。評議会からは周囲の都市から新たな司教を呼び教会再編成を訴える声が上がっていたが、この大陸一番の都市、アミティアで起きた不祥事だ。事変は周辺都市の教会にも波及していて、教会が正常な形で機能復帰するのはまだまだ先の話に思えた。
「はー、命を危機を脱した後の酒は美味いなー」
スレイはノロナについでもらった酒をあおる。
スレイはもう教会を去った身だ。あまり教会の再編自体に興味はない。唯一、教会のこれまでの罪を全て暴露する代わりに恩赦で開放されたヴォルフ大隊長の行方が気になったが、風の噂で欲望を抱くため放浪の旅に出かけたと聞いている。神のご加護がありますようにとしか祈ることしか出来ないため、こちらもどうこう言えることはない。
今、スレイが関心を示し、言えることは。
「温泉、いいよな」
「は?」
「いやギルドのお風呂さ、温泉にしないか? なんでも極東で《イオー岩》っていう温泉発生アイテムが作られたらしいぞ」
「ひひ、温泉、ですか? ……引きこもりとしては、そういうギルドの内装を充実させるアイテムは魅力的です」
「だろだろ? カネカ達はもう動き出してるし、この酒場にもクエストがちょくちょく張り出され始めてる。自分達用に持ち帰って、ついで一獲千金を狙おう。毎日温泉風呂だ!」
「いや硫黄って、それ……。たぶんそれ温泉の成分が判明しただけじゃないかなー? 噂で動くとさ、また痛い目みると思うよー」
リリィが困り顔で両手に持ったビールをちびりとあおる。
泡髭付けたリリィを見て、スレイは笑いながら酒をあおった。
「ごくごく。っぷは! ――何言ってるんだリリィ。だからこそ面白いんだろ!」
そして木樽を掲げ、上機嫌に言う。
「キッカケは何でもいい。新たな目標を定めて旅に立つ、ひょんなことから金を得て、それを軍資金にさらなる夢を、冒険を! それが冒険者だろう!?」
即座に呼応したのはノロナ、リリィはややあって納得したように深く頷き、そして周りで目敏くあざとく聞き耳を立てていた冒険者達が、
「おおおおおおおおおおおおおっ!」
酒を掲げて一気に歓声で沸く。
ここは人間の欲望の坩堝。今を生きる冒険者達の巣窟だ。
「ふふふふふふ。そうだね。だから私は人が――、スレイが――」
金の髪を優雅に蓄えたリリィは、妖しく妖艶に、しかし楽しそうに笑った――。
元テンプルナイトの俺が冒険者になってハーレムを目指したわけ @raimugi
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