清 三十と一夜の短篇第5回

白川津 中々

第1話

 借金総額五百二十万。返済予定未だ定まらず。借金を返すためにまた借金。泥沼。


 清は色魔であった。おまけに絶倫。しかし生まれつき醜悪により伴侶はおろか恋人すら現在に至るまでおず、性欲の処理はもっぱら商売女に任せていた。だが彼の稼ぎは両手で計算して指が一、二本折れる程度。日に五回の射精を迎えねば眠れぬ体質である清は、女を買う為に金を借り、首が回らぬ生活におちいってしまったのであった。


「ない袖は振れん」


 女を使い終わった後。自分に言い聞かせるように清が語つ。最近では質より量と、とにかく安く済ませようと酷い売女を買っている清であるがそれでも劣情の対価は高くつく。飯と違って出ていくだけの行為であるが、満たされぬ渇望は空腹の比ではない。

 試しに一度断色をしてみた事があったが結果発狂寸前まで錯乱し、ついには自らの首を包丁にて切断しようと試みるに至った。が、すんでの所で我に返り、僅かばかりの金を掴んで赤線まで飛んで行った。清はその時、自分は生きる為に女を抱いていると居直り、で、あれば是非もなし。と金を借りる事に躊躇がなくなったわけである。


 膨らみ続ける借金。食うや食わずに性行三昧。身体やつれ心身尋常ならざるとも男根逞しく隆々。しかしとうとう借りる当てもなくなり自慰に耽るも到らず。悶え狂い錯乱。清は以前首をかっ切ろうとした包丁で根元からいちもつを切断した。


 瞬間。溢れ出す血と精。滝の様に流れ出す二つの液体。清は恍惚の表情を浮かべ、そのまま眠る様にして果てた。彼の綱渡りの様な生活に、とうとう終止符がうたれたのであった。

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清 三十と一夜の短篇第5回 白川津 中々 @taka1212384

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