01.feeding
存外あっさり出来た。一応、お参りをしてから、存外あっさり飛び立つ。
心もとないと言おうかなんと言おうか、我が愛機の動力はリアクターでもなければ半重力装置でもなく、電力らしい。予算の都合もあったけど、数年前にあった蓄電池業界のブレイクスルーによって蓄電量と運用効率の飛躍的発展がなされ、現在では電力でもなんとかなるという。劣化・老朽化だけは避けられないらしいけれど。
そんなこんなであれよあれよという間に僕たちは宙を舞っている。まだ大手IT企業の鳥瞰マップのような風景が足元に広がっているだけだけれど、これもあと数時間すれば頭上だとか足元だとかという概念も無くなるのだなと思うと、何故だか少し緊張する。一応、機体の下部(と言って正しいのかはわからないけど)に簡易的な力場発生装置が備わっていて、無重力で名高い宇宙空間にあっても、搭乗者の歩行を可能にするらしい。コウちゃんは宇宙感が薄れるよねと不平を言っていたけど、結局そっちの方が生活に都合が良いのだから仕方あるまい。僕たちは下に引っ張られ続けながら生きてきたのだから。聞いた話では、重力がかかっていないと骨からカルシウム分が溶け出すらしいし。この狭苦しい空間で互いに苛々しだしたら目も当てられない。
飛び立って八時間前後といったところか。足元のモニタに広がっていた緑や茶や青も大分遠くなり、僕たちはある事実に直面していた。それは、航行中かなり退屈だということ。いや、予想はできたはずなんだけど、些か目を背けてしまっていたことは認める。二人揃って。訊いてないけど多分コウちゃんも認めるだろう。いやどうだろうな。あいつは布団が窓あれば幸せを得ることのできるタイプだから。
驚くべき事にこの格安飛行物体にも自動運転機能がついていて、基本的には放置しておいても大丈夫らしい。潜水艦で言えばソナーに当たる"有機・無機センサー"の二灯が飛来物を事前に認識し、緩やかに回避してくれる。勿論完全ではないし、故障も多々あるので一、二時間に一度は確認をすること、整備士のお姉さんに言われた。
無茶という程でもないことを言って作ってもらったこの相棒を使い易く、また(素人にも)分かりやすくチューンナップしてくれた、今となっては恩人とも言える彼女は、実のところコウちゃんの姉でもある。元気にしているだろうか。あらゆる物事があなたの周りとは異なる場所で、僕は暇をもて余してトランプタワーに勤しんでいます。なんて宇宙での孤独を演出してみたけれど、出発に立ち会ってくれたから最後に会ってから半日しか経っていない。
そうだ、彼女が出るときにくれたお菓子があったなと立ちあがった瞬間、コウちゃんが大声をあげた。寝言かとも思ったが、どうやらしばらく前に起きて窓の外を見ていたらしい。
Round Around 常磐かがみもち @kagamimochimochi
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