第191話 極意開眼
火竜の太く長い首へ、魔剣ブレイズの燃え上がる刀身が振り下ろされた。
中曽根が円偉達に隙を作ってもらい、ようやく敵に反撃の一閃を浴びせたのである。
本来は騎士団が身柄を拘束しておくべき彼らであるが、猫の手も借りたい現状では彼らも一戦力として参加していた。
「グオォ!」
しかし
「クソっ」
回避行動を取りながら、中曽根は思わず悪態を吐いてしまった。
「確実に弱っている! 今の距離を維持しながら、お前らのとっておきを順に叩きこめ!」
まだ回復しきっていない体に鞭打ちながら、仲間達へ的確な指示をとばし、リーダーとしての責務を果たす。
流石に
多少手間取ったものの、死者を出さずに討伐することが出来た。
中曽根は、ポーションを飲み干しながら、周囲の戦況を俯瞰する。
眼前で披露される、フィンケルら歴戦の強者たちによる雄姿の数々。
そして、彼ら英雄の末席に加わるほどに成長した、七瀬葵・遠藤秀介・中村賢人。
「俺は追いつけるのか? あそこに加われるのか?」
中曽根にもプライドがある。努力に裏打ちされた強さへの自信があった。
しかし今は、龍と渡り合う彼らと眷属一匹に精一杯の矮小な己を比較してしまい、どうしようもない無力感と焦燥感に心を支配されてしまう。
中曽根もこの二週間を遊んで過ごしていたわけではない。
むしろクラスメイトの中では、トップクラスに鍛錬に励んでいた人間のひとりである。
手のひらに刻まれたいくつもの
それでも、かつて下に見ていた男の背中には追いつけなかった。
男子三日会わざれば刮目してみよとは言うが、流石にここまでの差は残酷と言わざるを得ない。
しかし、それを理由に不貞腐れたくはなかった。
こんな自分に、命の最後まで付き合ってくれた、円偉達の信頼を裏切ることは出来なかった。
「次行くぞ!」
弱気になっていた心を鼓舞するように、腹に力を込めた号令を仲間に掛けたその時であった。
不可解な音が鼓膜を叩いた。
重機を想起させるような、重厚で鈍い金属音。
発信源を知ろうと振り返った中曽根は、目の前の事実に我が眼を疑った。
鉄の要塞が鎮座していた。
否、要塞と見まごうばかりの怪物砲台が、その長大な砲身を龍へと照準を定めていたのである。
いつか歴史の教科書で見た列車砲に酷似している。
名前はドーラだったかグスタフだったか。
「おい、ふざけんなよ……
この二週間でどこまで引き離されたんだ?」
受け入れらる容量が限界に達し、中曽根の頬が引きつったように笑った。
◆◆◆
『極意』という言葉が語り継がれてきた。
強力な
これを取得することを『極意開眼』と呼び、取得者は国から特別待遇を確約されるほどの得難い人材となる。
その高みへ今、二人の少年が駆けあがろうとしていた。
「っはあ!」
遠藤が思わず息を漏らした。
彼の頬を伝わる玉のような汗を、傍のエストが拭いてくれる。
その雄大な砲身の構築に、Mpのほとんどを喰いつくされてしまった。
合理的思考の持ち主である彼が辿り着いた先がロマン砲とは、実に皮肉の効いた事実である。
「……次だ」
「はい……」
徹夜明けのような朦朧とした精神状態で、エストに追加のMp回復のポーションを要求する。
ここで気絶するわけにはいかない。
砲とは弾を射出して初めて意味を成すのである。
「視界良好、方位良し、射角よし」
狙撃相手へ最終確認を行った後、腹に力を込めてフィンケルにありったけの声で叫んだ。
「準備出来ました!」
「ようし! 二人とも退避!」
指揮官の合図によって、美女と巨漢が一斉に身を
二人が十分な距離を確保したことを視認した遠藤は、隣の巨砲へありったけの
轟音をまき散らし、人の二倍はあるかという砲弾が飛んでいく。
そして、
「は?」
遠藤を除く、この場において『銃』の知識を持つ全員が絶句した。
弾が二つに割れて、中身の中村賢人が出てきたのである。
重砲の加速を受けとって翔ぶ彼の衣装は、先ほどとは大きく変わっていた。
龍の外皮は纏っておらず、代わりに一着の金色の鎧を身につけている。
小竜となったいた時と比べると身長自体は小さくなったものの、感じ取れる威圧感は変わらないどころか増しているようにも思える。
それは強大な龍の力が、この小さな鎧に凝縮されていることを意味した。
とある少年の、『ヒーローになりたい』という願いの具現化であった。
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