第190話 遥かなる高みへ望む
それは、
「日中は周囲の
後に
「周囲の魔物は低い
「師匠、質問です!」
風切り音を幻聴するほどに、素直な弟子が素早く右手を挙げた。
「どうしてこの付近だけは、魔物の
質問を受け取った師は、何度か頷いた後に口を開いた。
「鋭い質問だ、良い着眼点を持っている」
「ありがとうございます!」
「それでは次の説明を行おうか」
「師匠!?」
遠藤は、回答を拒否されて慌てる質問者を眺めながら、回答者の対応の真意を自分なりに組み立てた。
魔物の
昔は恐らくここらも、強力な魔物が
しかし、目の前の反則的存在が屋敷に住み着いたことで、状況が一変した。
外来種によって従来の生態系が破壊されるように、彼は魔物を根こそぎ駆逐したのである。
強力な魔物は姿を消し、他の強く
結果として生まれた縄張りの空白地帯に、弱い魔物たちが避難して、中村の言う『都合が良すぎる』状況が完成したわけである。
であれば、影山が回答を濁した理由も容易に想像がつく。
答えようとすると、どうしても『己が強いから』などという
力を見せびらかしたくはないこの男にとって、それは口が裂けても言いたくなかったのではないか。
察した弟子が、この場でとるべき行動は一つである。
「中村、そこは深堀りする所ではない。
今の俺たちが注目するべきは、師匠の特訓内容であるべきだ」
「そ……それもそうだね、遠藤君。
失礼しました師匠、続きをお願いします」
食い下がる中村を
「君たちには、目標を一つ持ってもらおうと思っている」
「目標ですか……なるほど」
遠藤は納得したように顎に手を当てた。
同じ特訓でも、課題があるとないとでは、上達に大きな差が生まれる。
「どんな目標なんですか? とんでもなく難しい事だったら……緊張します」
「そこまで気構えしなくて良い、中村。
私を攻撃して、手傷を負わせることだ」
数秒間、中村賢人の身体と頭脳が停止した。
「………………………………テキズ? ボクガ……アナタニ?」
「そうだ。
一日の終わりに場を設ける、そこで私に攻撃して傷を負わせてほしい」
かたことで硬直する弟子を見て、師は言葉足らずだったかと説明を続ける。
「無論こちらから君たちに攻撃はしないし、君たちの攻撃を避けることもしない。
私の防御力も公開するが、これは周りには秘密にしてくれると大いに助かる。
いまだ呆然とする中村の右手に、呆然とさせた本人が文字の書かれた紙を握らせた。
「それでは、今日から二週間よろしく」
一連の会話を聞いていたクラマが、三色団子を頬張りながら苦笑していた。
◆◆◆
「予想はしていたが……とんでもない数値だ」
「単純な
加えてこの
開示された影山の情報は、まさに理不尽の一言に尽きた。
本来
しかし、
遠藤の頭脳をもってしても、まずどのように傷を負わせるかという『方法』の段階で、作戦会議が停滞してしまった。
ああでもない、こうでもないと、進まない議論をいくつか交わした後であった。
「……どうして師匠はこの目標にしたんだろう」
「何だと?」
ぽつりと呟いた中村の疑問に、知恵熱を出し始めた遠藤が鋭い眼光を向ける。
「あ、いやさ、僕たちが強くなるためだけなら、別に他の目標でも良いわけでしょ?
どうしてわざわざ
まさか己の発言が拾われるとは夢にも思わなかった中村が、慌てて説明を付け足す。
「確かに……
今になって思い返せば、このためだけに強さを明らかにした事も実に不自然だ」
弟子限定とはいえ、あの秘密主義の影山が、である。
「……これぐらい堅い敵を倒せる手段を、僕たちに見つけてほしかったのかな?」
その独り言は、遠藤の考察における最後の
難問を解くためのひらめきを得たように、双眸が大きく見開かれる。
「中村、お前は師の言う通り、良い着眼点を持っているようだ」
「え……え⁉」
話し相手はただ困惑するばかりであった。
ここまで何度も事の核心を口にしながら、どうして答えに辿り着けないのかと、遠藤は相方へ心中で嘆息しながらこれからの方針を告げた。
「進むべき道は決まった。
あの要塞人間をぶち抜く火力を、この二週間で手に入れる」
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