第170話 君に内緒でいろいろやってるよ
夕暮れの
「あらためて、嫌な役割を引き受けてくれてありがとう。クラマ」
「気にするなって、結構新鮮な感覚だったよん」
リベリオンズから追放された
鼻歌まじりに
「気に入ってくれたようで何よりだ」
「……森の滴だったっけ? 実に華やかな銘酒じゃないか」
酔っぱらいは、空の
最後の一滴まで飲み干したいという
行儀が悪いというのに、その姿は実に絵になった。見目麗しいというのは、なんとも得な特徴である。
「それで……クラマから見た二人はどうだった?」
晩酌に一区切りついたと見計らって、話の本題を切り出す。
リベリオンズにおける、中村と遠藤の監督役としての仕上げが残っていた。
山伏は問いかけに対して、もったいぶるようにわざとらしく腕を組んだ。
「まず、ナカムラはおおむねヨシだ。
弱音を吐いて自虐して、落ち込んでしまうことはあるけれど、そこからの立ち直り方が上手い」
品定めする彼女の瞳は、宿している光が先ほどとは明らかに変わっている。
大勢の民の上に立つ長の面構えというべきか、こちらの心の内まで見通してしまいそうな鋭い眼光を秘めていた。
「苦労の多い人生で
言葉が途切れると同時に、体に圧と温かみを感じる。
「クロードもそれが分かっているから、ナカムラをリーダーにしたんだろう?」
横を向くと彼女が確信に満ちた表情で、こちらの肩に手を乗せていた。
「……いやまったく?」
「あれぇ?」
自信満々の考察を否定されて、鳩が豆鉄砲を食ったような表情に上書きされた。
「どちらかというと、遠藤が参謀向きだから消極的に中村をリーダーにしただけで、何か不具合が起これば遠藤に変更しても良いぐらいの心づもりだった」
「おいこら」
真意を聞いたクラマは、肩に置いていた腕をこちらの首に回し、
本気で絞め落とす気迫はない、ただじゃれているだけなのであろう。
「あんたからリーダーを任されて、中村めちゃくちゃ責任を感じていたんだぞ?
もう少し深い理由で選んであげなよん」
「私を何だと思っている」
回された腕の手首をつかんで、絞め技から首を開放する。
「たかが十数年生きた小僧が、他人の奥底まで見抜くなどという仙人じみた所業なんて出来るわけがないだろう」
「おう、すごい
「……だからこそ、多くの人材を見守ってきた
「そりゃ光栄、と言っておこうか」
肩をすくめたクラマが元の場所へ座ったことを確認して、自分は彼女との間に置かれていたお盆に手をかざす。
すると影の一部が盛り上がり、中から三色団子を乗せた漆器が出現した。
「話を戻そう。リーダーの中村はクラマ先生のお眼鏡にかなったから良いとして、軍師の遠藤はどうだった?」
元リベリオンズ顧問の人材評価が再開したのは、団子を
「エンドウは頭脳明晰で、いつだって冷静な判断が出来る。
あんたが参謀向きと評価したことには賛同するよ。ただねぇ?」
「ただ?」
「ちょいと心が危ういかもしれない」
「意外な言葉だな」
やはり視点の違う人間からは、別観点の感想が出てくるのであろう。
いかなる状況でも冷静沈着な
「復讐者だった過去が大きく関わるんだろうねぇ。
他人に弱点を見せられないって、完璧たらんと気張っている
今のあいつには、弱さを
「そんな一人で抱え込む側面があったのか……」
知り合いの意外な一面を知れたことで感傷に浸っていると、横から意味ありげな笑みを浮かべた顔が覗き込んでくる。
「君だって、弱音を吐ける奴ぐらいいるだろう」
「私は……」
一瞬、
あの長年の盟友は、思っているよりもより大きく、己の心に居座っているらしい。
「……そうだな、腹の内をさらけ出せる相手がいないというのは息苦しいな」
「ねぇねぇ、今誰を思い浮かべた? もちろんあたしだよね? 白状しなさい。吐け」
だんだんと語気が強まりながら女傑が迫ってくる、今度は本気で
心中にヒヤリとしたものを感じながら、即座に片手で静止し話題を戻す。
「つまり遠藤が弱音を吐ける相手がいればいいんだな」
遠藤はリベリオンズの軍師的存在であり、中村の右腕の役割を担っている。
そんな彼に精神面での課題があるのであれば、師として何とか解決に協力してあげたい。
「あてはあるのかい?」
「……ないことは無い」
「あの堅物にそんな存在の心当たりがあるのかい!? 教えて教えて」
「まだ思いついた段階だ。今は語るべき時ではない」
「けちんぼー」
頬を膨らませながら四串目の団子に手を伸ばす。
出現させた団子は全部で四串であり、二串はこちらが食べる分だったのだが、その辺りはこの『くいしんぼー』は理解しているのであろうか。
「んで……だ」
最後の一個を口に放り込んだ後、頬にお弁当をつけた口がポツリと呟く。
「あたしがリベリオンズではしゃいでいる間、あんたはな~にをしていたんだい?」
自分は仮面を取り出し顔に取り付ける。
ここから先の話題は最低限の人物にしか知られたくはなく、たとえクラマであっても表情を読まれたくはなかった。
「今はまだ明かせない。この先に確実に役に立つ事から、念のために準備している事までいろいろだ」
「それが隣の部屋の二人「それ以上は語らないでもらえるか?」
横目で部屋の奥を見たクラマの言葉に被せる。
人の話を
「どこで誰が聞き耳を立てているか予想もつかない」
「……なるほど?
懐から金貨が詰まった袋を取り出し、クラマへと放り投げる。彼女は抜群の反射神経で、片手で鮮やかに受け取った。
「これが今回の報酬だ、受け取って欲しい」
「私も久しぶりにパーティ活動を楽しめたし、別に払わなくてもいいのに」
「私から頼んで入ってもらったんだ、楽しむのはそっちの勝手だろう」
「律儀だねぇ」
感心したような、呆れたような声だった。
「それに……人間関係のトラブルのおおよそは金銭関連が原因と聞いたことがある。
君という貴重な友人を失う事は出来る限り避けたい」
「そう言われると遠慮なく受け取れますな」
切り替えの早さは彼女の美点である。
二マリとした表情で袋を懐にしまった、おそらく明日の飯代に消えるであろう。
「ん!」
その時であった。
王城を監視していた分身体の視覚が、異常を大音量でこちらに伝えてくる。
「勇者たちの方で動きがあった。
一部のクラスメイトが討伐遠征の延期に不服で、先走ってしまったようだ」
「あちゃ~、やっぱりムラカミは我慢できなかったか」
報告を聞いたクラマは、両手を頭の後ろで組んで後ろに仰け反り、しょうがないという顔で天を仰ぐ。
「いや村上ではない、我慢できなかったのは中曽根だ」
「なんと!? きゃん」
驚きのあまりバランスを崩したのか、木の床に後頭部を打ち付けた。
痛がる彼女を見下ろしながら、たった今飛び込んだ情報を告げた。
「先ほど仲間と一緒にダンジョンに潜ったらしい」
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