第131話 初依頼
「ん〜〜〜〜?」
冒険者ギルドの依頼掲示板、Fランクの依頼が所狭しと貼り付けられたエリアで出来立てパーティの新米リーダーは唸っていた。
「迷ったところで仕方がないだろう、リーダー」
痺れを切らした遠藤が、首と体を捻りすぎて前衛芸術的彫刻になりかけた少年に声を掛ける。
「ごめん遠藤君……僕が今から人の役に立てる仕事をするって考えると舞い上がっちゃって、何と言うかどの依頼の詳細を見ても輝いて見えるんだ」
今まで自分の力を低く見積もり、周囲からは必要されていないと思い込む人生を歩んできた彼にとって、現況は浮かれるのに十分なものだった。
「依頼をこなしていくことでパーティーの欠点を洗い出し、改善したり新しい仲間を引き入れて補っていく。それが現時点での目標だろう?」
「はい……」
「低ランクの依頼を侮っているわけではないが、それでは俺たちが抱える欠点を見つけられるほどの難易度には出会えないだろう」
ノックをするように手の甲で壁を軽く二回叩く。
「このギルドでは冒険者のランクは、実力もそうだがこなした依頼の量と質で決めていると師匠は教えてくれた。であれば、多くの依頼を効率よくこなし、さっさと高ランクの依頼が受けれるランクまで上がる必要があるだろう」
そこで遠藤は言葉を区切り、優柔不断な少年をじっと見据える。
「……だというのに依頼一つとるのにそう深く考えていては、いつまでたっても前進しないと思うが?」
「ごもっともです……」
しかし、さあ選ぶぞと壁一面の紙を見直しても、情報の洪水に押しつぶされそうになる。堂々巡りの思考の後、中村はふと気が付いた、別に自分一人で決めなくても良いのだと。
「参考まで聞かせて欲しいのだけれど、効率良くこなせって言われたら遠藤君はどんな風に依頼を受けるの?」
「そうだな、俺としては具体的に言うと……」
狙撃手は多くの依頼を一通り見ていく、明らかに依頼の詳細一つ一つを見てはいない。何かの項目を確認しているようだった。
Fランク依頼を全て見終わると、彼はクラマに振り返る。
「経験者の視点から意見が欲しいのですが、今のリーダーと私ではFランク依頼を一日何件こなせそうですか?」
クラマはこの二週間、二人の特訓を見守ってきた人物である。第三者からの評価を貰うという点においては、適切な人物であると遠藤は判断した。
尋ねられたクラマは
「そうだね……依頼を受けて、装備を整えたりアイテムを買ったり、依頼の場所まで往復の移動時間と、ギルドで報酬受け取りを考えるとだ」
くわっ! と彼女は目を見開く、あまりの迫力に遠藤と中村は一歩後ずさった。
「今の君たちの実力なら、Fランク依頼限定で言えば一日4から5件は確実にこなしていけるだろう!」
「な、なるほど、ちなみにクラマさんは得意な依頼などはありますでしょうか?」
「私は討伐依頼かな、冒険者になったきっかけも強い
逆に採取依頼とかは苦手かな、クロードと一緒に受けてみて知識不足を思い知らされたよん」
「分かりました」
遠藤は再び掲示板の前に立ち、手際よく紙を手に取っていく。
「この四つの討伐依頼を手始めに受けてみようかと思う」
「いきなり、四つも!?」
新米冒険者パーティーなのだからまずは一つ、と考えていたリーダーにとっては予想外の回答だった。
「リーダー、依頼書の討伐対象を確認してみてくれ」
「スライム、スライム、スライム、スライム……これ、そうか全てスライムだから」
「そうだ」
中村の気づきに遠藤が同意する。
「討伐対象を絞れば、違う種類の
加えて全て討伐依頼だから、俺たちが何か躓いても、その道のプロであるクラマさんの助けが借りられるという寸法だ」
「すごいよ遠藤君! 僕はそこまで頭が回らなかったよ」
参謀の意見に感動し何度も頷いた後、中村は手元の紙を握る手に力を込めた。
「その四つを受けるってことで良いかな?」
彼の気持ちを察したのか、後ろからクラマが依頼書を覗き込む。
「はい! 今の遠藤君の解説を聞いて、依頼を達成できそうな気持ちになったからこれにします」
「そんじゃ、気分が乗っているうちに向かおうじゃないか」
「クラマさん、初依頼の手助けよろしくお願いいたします」
「あいよ、任しとき」
依頼を受ける旨を伝えるため、ギルドの受付へ足を踏み出した時の事である。
「……リーダー」
「はい?」
遠藤に後ろから呼び止められる。振り返ると彼は顔を近づけて、小さな声で囁いてきた。
「師匠からクラマさんを紹介されたときの内容覚えているか?」
「うん。剣術の腕前は達人の域で、加えて術で
いきなりコソコソ話をし始めた二人に、仲間外れにされたクラマは頬を膨らます。
「そして、とある種族の頭領でもあることも説明していただろ?」
「もちろん、どうして今その確認を?」
「……いや、分かっているならいい」
遠藤は内緒話を打ち切り、リーダーの背中を押して受付へ行くように促した。押された側は頭に疑問を浮かべながらも、早足で向かっていった。
彼の確認の意図を、中村賢人が理解するのはもう少し先の事であった。
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