第132話 断章/談笑 影山亨と柿本俊
俺の名前は
今俺は、神聖ルべなんちゃら王国のうんちゃら城内の俺の自室で、盟友の
王国で死んだ扱いされている奴が、こんな場所でくつろいでいていいのか心配だったが、影山が言うには影魔法を使えば問題なく俺に会いに来れるらしい。警備ガバガバじゃねぇか。
「そっか、それでようやく中村と遠藤は冒険者になったわけか」
「あぁそうだ、全てが計画通りには進まないな。柿本」
布団に
「しかし冒険者か~、ちょっと憧れるな~」
「そうなのか? お前はてっきり勇者生活を楽しんでいると思っていたんだが」
「少し前まではそうだったんだがな? 今の俺は冒険者の成り上がりがマイブームなのよ。今は勇者として頑張ってはいるが、クビになった日には冒険者に転職しようかという野望も密かに秘めておるのよ」
「もし冒険者になったら真っ先にパーティーに誘ってくれ。喜んでメンバーになろう」
それが現実になったら、ひょっとして王国最強のパーティになるのではなかろうか。Sランクパーティが束になっても敵わなかったビルガメスと、
「そういう意味じゃお前が冒険者登録するときに、真っ先に俺も誘ってほしかったぞ」
「もう何度も謝っただろう、あの時は目の前で起きる出来事に手一杯だったんだ」
「冗談だよ」
あのとき影山が単独行動をとれたのは、【分身】とかいうめちゃんこ便利なスキルがあったからだ。仮に俺が誘われたとしても、周りの目を誤魔化してこっそり冒険者にはなれなかった。
「そう言えば、お前が冒険者になった時もカレラさんとやらは『ようこそ、冒険者ギルドへ!』って言ってくれたのか?」
「その通りだ、思えばあの時の自分も、遠藤や中村と同じ反応だった」
過去を吐露する親友の目は、どこか穏やかな優しい感情を含んでいる。
「かつての己を懐かしんでいる感じか?」
「……やめてくれ、『かつて』と言えるほど時間は経っていない。
自分などはこの世界で何十年と働いている先達の方々から見れば、ひよっこもいいところだ」
「そう謙虚になるこたぁないだろ。未だにこの場所で修業中の俺からしたら、社会に出て活躍しているお前は輝いて見えるぞ!」
「そうか? なら少しだけお前の前では自信を持って振舞おうか。立派になっただろう、柿本」
「すごい! 偉い! 天才! 高身長!」
「馬鹿にしてるだろお前!」
影山にヘッドロックを掛けられて慌ててタップする、この世界に召喚されてから久しぶりの感覚だった。
ひとしきり笑い合った後で、一つ気が付いたことをそのまま口にした。
「というか中村達が初依頼受けたなら、ここでゆっくりしていていいのか? 指導者としてストーカーが引くぐらいガッツリ見てなきゃダメなんじゃないか?」
「ここに来たのは別の目的があるんだ。お前と話しているのはそのついでだからお構いなく。
それに中村達にはクラマが補助してくれている。やって欲しいことは彼女に細かく説明してあるから、任せておいて安心だ」
顔を
「なんつ~かさ、そのクラマさんって人を話すとき、嬉しそうな顔するじゃねぇか」
「そう見えるか?」
慌てて口元を抑えた手を、俺の前ではそんな行動無駄だと悟りゆっくりと離す。
「いや……他でもないお前が断言するなら、そうなんだろう」
「なあなあ、そのクラマって人の年齢は?」
「かなり高齢だと思うが、見た目は自分と同い年ぐらいだ」
「美人か?」
「かなりととのっている方だと思う」
影山の回答に、俺は嬉しさで手を打ってしまう。
「その子と親しくなっているみたいで安心したんだぜ。お前はクラスの女子と話すときも、一線引いた話し方をするじゃないか。
仕事の距離感とでも表せばいいか? それを見ていると、やっぱり幼稚園のあの一件を引きずってるんじゃないかって」
「……何かあったか?」
すっかり忘れてしまっている幼馴染に、俺は思わず前のめりになる。
「覚えてないのか!? モモコ先生の時だよ!」
「ん"ん"っ」
珍しく影山が取り乱す、中二病時代の話を掘り返された俺みたいな反応だった。
「今でもよく覚えているぜ」
あの日まだ年中だった影山は不倫ドラマを見ていた父親から、『漢なら生涯一人の女を愛するべきだ! 他の女と仲良くするなど
その後、ドラマ内で醜い痴情のもつれを見せられた影山も父親とおなじ感想を持ち、翌日俺にその考えをぶつけてきた。
ここまでならよくある話で片付けられるのかもしれない。
しかし影山は、片想いをしていた俺たち年中組の担任モモコ先生に、そのままの勢いで告白してしまったのだ。
モモコ先生は既婚者だったため、やんわりと断られてやつの初恋は無残に散った。
それからである、影山は他の女性と距離を取るようになった。幼馴染である七瀬とすらだ。
原因ははっきりしていた。俺はすぐさま酔いがさめた影山の父親に報告して、何とかその硬派すぎる考え方を改めようと努力した。
『いくらなんでも決断が速すぎないか』とか、
『もう終わった恋、別の恋をしても良いのでは?』とか、
『これからの長い人生、必ず出会いがあるから』とか言って必死に説得したものだ。
しかし影山は、その言葉を笑って聞き流していた。一度決めたら絶対に変更しない、こいつの長所と言えるダイアモンド級の意思の固さが最悪の形で作用してしまった。
『孫の顔が見れないかもしれない』と、泣きそうになっていた父親の顔が記憶に残っている。
そして月日は流れて今に至るが、奴にそういった浮ついた話は一切出てこない。超出てこない。逆に男色なんじゃないかと鬼塚にからかわれた事もあった。
しかしもう昔の話、誰だか知らないが影山を少しだけ変えてくれてありがとう、クラマっていう人。
「……それで、こちらはこれでいいとしてだ。そっちはどうなんだ柿本」
俺が安堵の感情に浸っていると、今度は俺に話題が移る。
「お前の専属のメイドのエルザとは何か進展はあったのか」
「ぐっ!?」
今度は俺が取り乱す番だった。
「えぇとそれはですね。ちょくちょくお話するだけで幸せでしてね、それでそれ以上は……はい」
「覚えているぞ柿本……召喚初日にちやほやされている言峰を見て、俺もハーレムを作ると嫉妬の炎に燃えていたお前を」
こいつ、俺の失言を覚えてやがった畜生。一人の女の子でウキウキワッショイしている俺に、一夫多妻なんて無理だろうが!
その後影山の追及は、そろそろ時間だと俺の部屋を立ち去るまで続いた。
うーむ。やっぱり話したり手を繋ぐぐらいじゃ、あんまり進展したとは言えないだろうか?
今度お出かけに誘ってみるのもいいのかもしれない。
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