第70話 震撼・暗き三日月
パラウトの神社に祭られていた本尊は、初代巫女が神樹との契約において作られたものではない。
初代巫女が神樹関連で行ったことは、里の結界の創造と、維持と引継ぎのみだった。
この本尊が作られたのはパラウトの巫女が三代目をなったとき。
当時活気のなかった町に明るさを取り戻そうと、神樹の魂がこもる木像を制作し、祭りを開催したのだ。
歯に衣着せぬ言い方をすれば、祭りのダシとして作られたわけである。
しかしその像に対して祈ること200年、もはやそれはただの木像ではなく、本当に魂を入れることを用途とした神器へと変わっていた。
祈ることに関してなら【
しかしここで注目すべき点は、この木像が『魂を入れる』というものであって、決して神樹の魂限定をいうわけではいないということだ。
ならばもしかしたら、ほかの魂でも入ることができるかもしれない。
そして今、『魂が存在し』、『魂を降ろす神域の中で』、『木像を魂にぶつけた』
もしかしたら、そんな単純なものでは成功できないかもしれない。しかしやらないよりましだった。
そして、蓋を開けてみれば予想を上回るほどの成功を果たした。
彼女はまだ十分に生き返る事が出来るし、彼女の魂を木像の中に収めることができ、さらにそれが私たちの手の届くところにある。
これを万々歳と言わずに何と言おう。
「シッドさん、それを!」
「……はい!!」
急いで木像と彼女の身体を回収し、素早くこの場を去ろうとする。
「キサマラアアアアアアアァァァァアアアアアアアアアア!!」
神樹はかなり頭に来ていた。私たちの目の前で公開処刑を行うはずが、自分が力を手に入れるうえで必要な人物を、私たちにあっさり渡してしまったのだから当然といえば当然だ。
逃げるために階段へと足を踏み出した瞬間、
「危ない!!」
シッドが私の襟首を掴み、強引に後退させる。
一瞬の後、彼から突き出た根が私の鼻先をかすめた。
「うっ」
「まずいですね」
どうやら引き返してきた根たちが、私たちの周りに集結したらしい。
今シッドは巫女を担いでおり、手も木像を持っていてふせがれている。
私も先ほどの魔術の連発で、撃てないとは言えないが満足には戦闘できないだろう。
「アハハハハハハハハハハ!」
その場の空気がにけたたましく振動する。
「ザンネンダッタナ!! キサマラハオレノキガスムマデアソンデモラウ! サイゴノチカラガダセナクナルマデイタブッテヤル」
「本当に自分勝手ですね」
もう呆れて言葉も出ない。
「ホザケ。
ヨワイヤツガデシャバルカラソウナルンダヨ」
「弱い?」
こうまで典型的な性格だと逆に冷静になってくる。。
「なるほど、実にくだらないですね」
「アア"!?」
逆鱗に触れたらしい、かまうものか。
「オレガクダラナイダト!?」
「えぇそうです、あなたは周りに自分より強い人がいないせいで、自分が特別な存在だと思っている。
くだらないですよ、要は弱い者たちをいじめて自己満足しかできないいじめっ子なだから」
「キサマアアア…………」
両手を前に突き出し魔法を放つ態勢をとる。
「いつの時代だっていじめっ子は、自分より強いやつに負けて、初めて井の中の蛙だって知るんです」
覚悟を決め魔力を練る、根が私に向かって殺到した。
「【フレイムトルネード】!!」
私もまた、怯まずに正面から受けて立った。
<個体名【
<『神の破片』による個体名【
■■■
<
<
■■■
■■■
【炎魔術】Lv,7が『神の破片』の干渉により
<
■■■
■■■
【木魔術】Lv,3が『神の破片』の干渉により
<
■■■
■■■
【水魔術】Lv,3が『神の破片』の干渉により
<
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■■■
【土魔術】Lv,4が『神の破片』の干渉により
<
■■■
■■■
<
<
<
<
を統合させ<
■■■
■■■
『神の破片』を変化させ。
<
■■■
「コレハッ!?」
「?」
いきなり根の攻撃が止まる。
「何の話ですか」
「アイツダ、マギレモナクアイツダ」
話しかけてみても会話になっていない。
「コノ、コノバニオヨンデマダワタシノジャマヲスルトイウノカ!! コゾウ!!」
まるでこの場にいない誰かを見つけたような、そんな口ぶりだった。
「オノレ、オノレオノレオノレオノレ。 オノレエエエエエエエエエエエエエエエエ」
叫ぶが否や、私の周りを囲っていた根をすべて引き離し、なぜかそれらをすべて私たちではなく螺旋階段を横切って、一番下の床へと突き進めた。
◆◆◆
「うるさいな、大きな声で。一昨晩から徹夜続きで頭に響くんだ」
神樹の真下にある空洞にて、自分ことクロードは愚痴をこぼしていた。
あれからやっとのことでこの忌々しい迷路を潜り抜け、二日ぶりに地上の空気が吸えるというのに、またあの空気の振動が自分の鼓膜を襲ったのだ。
「キサマハイマ、ココデカクジツニコロス」
「そう」
こちらの話を聞く余裕さえない。先ほどからうまくことが運ばず、かなり怒りが溜まっているようだった。
「その様子だと、思惑すべてが外れたらしい。そんな」
世の中には『目立ずに暮らす』という予定を立てていたのに、国一番の悪者にされるなんてこともあるのだから。
「オレハ、キサマラトハチガウ。ツヨクテトクベツナンダ」
「はは」
「ナゼダ! ナニガオカシイ!!」
「実に馬鹿馬鹿しい」
神樹の言葉を一蹴する。
「努力もせずに貰った力を本能のままに振るい、自分の考えを人に押し付けて反論すら聞かずに潰していく。
何か不都合なことが起こるとすぐに
散々周りを振り回したくせに責任も持たず、けじめも収拾も付けようとしないでほったからかし。
それでなお、
半ば自分に言い聞かせるように呟いた、単に神樹を罵倒するためでなく自らを戒めるために。いつかこの言葉が自分に向けられないように。
「さて、そろそろ出させてもらおうか」
地面に手を当てる、するとその場所に影が生まれ一本の刀が生えてきた。手に取り、右手でスラリと抜く。
剣先から柄、
「ヤメロ!」
「いやだ」
「ソノブキヲオロセ」
「断る」
「クソ、イマスグニ「もう遅い」
根が天井を突き破る。今まさに自分を攻撃しようとするよりも早く刀を振り下ろし、技を発動した。
「【半月】」
◆◆◆
「いったい何が起こっているんでしょうか?」
「分かりません」
私は階段の縁から、一番底へと突撃していった根たちを見下ろしている。
どうやら根たちの目標は地面の下にあるようだ、しかし私が生やして、そして落とした木々が邪魔をしている。
先ほどまで強大に見えた根も、高い場所から見ると小さな生物にしか見えないから不思議なものだ。
「目的は達成しました、帰還しましょう」
どのみち根がいない今が好機だ、ここでもたもたしていればまたあれらが襲ってくるかわからない。
帰りの手段はいくつか模索してある、あとは行動するのみだ。
そう考えて崖に背を向けようとした瞬間。
「え?」
底のほうで何かが光ったような気がした。
しかし、疑問にまでは至らなかった。
その光は莫大な力と威力を秘めながら、まるで
「なっ!?」
「伏せてください!!」
力をいち早く感じたシッドが、私を背後から押し倒しその力の奔流に備える。
力は私たちを通り過ぎた後、凄まじい轟音と共に上で輝いていた巨大な光球に直撃した。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア」
肌で感じられるほどに魔力が乱れ、神樹の苦しそうな声があたりにこだまする。
あの力は、たった一撃で根たちを消し飛ばし、硬い地面を粉塵に砕き、壁を階段ごと削り取り、力の核を引き裂いた。
こんなことができそうな人物を私は一人しか知らない。
私の足元の影が不自然に伸びて、その中から仮面の冒険者が顔を出した。
「遅くなりました、賢者様」
何てことなかったように、彼は私に帰還を告げた。
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