第42話 悪役の最後
勝負が始まると同時に言峰が切りかかってくる、双剣を構え、言峰に対して【
■■■
【Name】
【Race】 人間
【Sex】 男
【Lv】15
【Hp】 240
【Mp】 240
【Sp】 30
【ATK】 288
【DEF】 288
【AGI】 288
【MATK】288
【MDEF】288
■■【
【勇者】
■■【スキル】■■
<
【聖剣術】Lv,2
【光刃】Lv,3
■■【称号】■■
【異世界人】【勇者】
■■■
「む…」
思わずそう小さく唸ってしまう。
はっきり言って今の言峰の強さは想像以上に想像以下だった、具体的にどのくらいの強さかというと、こちらが言峰のおでこにデコピンをしただけで言峰がダウンしてしまうほどだ。
決闘が決まってから、言峰は王国周辺で桐埼達と共に
パーティーで行動することによって起こる経験値分割と、効率よりも安全を重要視しすぎた王国の方針がここまで成長を遅らせるとは思わなかった。
「このぉ!」
言峰が聖剣を振り回して自分を叩きのめそうとする。
言峰の
なんでも普通の人が振ってもただの剣にしかならないが、言峰が触れるとたちまちこの世界最強クラスの武器へと変化を遂げるそうだ、つまり言峰は、『強力な武器で一撃必殺』という戦闘スタイルなのだ。
そうと分かれば対策は容易に立てられる、当たらなければ問題ではない。
【五感特化】によって鍛えられた動体視力が聖剣の動きを教えてくれるので、はっきり言って回避するのはそう難しいことじゃない。
さらに加えて自分の
攻撃が当たらない言峰は、だんだんと回避してばかりいる自分に対して怒りがわいてきている。
「さっきからチョロチョロと逃げてないで攻撃してきたらどうだ!」
自分が攻撃したら一瞬で決着がつくんだよ。
「逃げんなよ!ガキ!」
「言峰様!はそいつをやっつけて!」
民衆からもヤジが飛んでくる、ため息を一ついて短剣を言峰の聖剣に対して叩きつけた。
するとたちまち言峰はその反動で面白いように後ろに吹っ飛び、広場にあった台座の一つに背中を叩き付ける。
言峰はその激痛に身をよじらせる、手加減をしておいたおかげでまだ意識はあるようだ。
チラリと今の光景を見たそれぞれの反応を、強化された視力で見た。
言峰が吹き飛ばされたことによって、桐埼や生徒会長など言峰に恋をしている女子やクラスメイトは自分を親の仇でも見るよな目を向けてきた。
一方、言峰の勝利を確信して疑わず、今回の決闘の策略を練っていた奴らは顔を驚愕の一色に染めていた。
メイドのティファは目を見開き、遠くから観戦をしていたクシュナー卿は椅子から立ち上がっている。
言峰に対して一歩、また一歩と歩を進めていく。
「動けない相手に何をする!」
「汚いぞ!」
そんなヤジが飛んでくる、どうやら何をしてもこちらは文句をつけられるらしい。
彼らはこの決闘自分が言峰にこてんぱんにやられる姿を望んでいたのだろうが、予想と全く逆の結果になったことで納得がいっていないのだろう。
しかし言峰は戦闘不能になったわけではないし、まだ『降参』とも言っていない、つまりまだ決闘は続いているのだ。
言峰との距離がほんの数歩ほどの位置へ近づいたとき、彼に声をかけた。
「どうやら戦えなさそうだけど、降参するか?」
さて、彼はどういう返答をするだろうか。
「…けない」
「ん?」
小さく、しかししっかりと何かつぶやいた、後半しか耳で拾えなかったが、どうやら自分の想像していた返事が返ってくるらしい。
「僕は! 僕は負けない!
あの子のためにも! 僕はおまえを倒さなくてはいけないんだ!」
叫びながら言峰は立ち上がる、まだ戦闘の意思があるようなので自分は間合いを取るため後ろに跳躍する。
言峰は剣を掲げ、はぁぁという気合とともに力を貯め始めた、あれはおそらく言峰のステータスに記載されていた【聖剣術】の【光刃】だろう。
技の内容は見ての通り剣に自分の聖なる力を溜め、敵に叩き付けるものだ、剣が光り輝きだす、傍から見ればとても幻想的な光景に見えるだろう、まるで神話に出てくる英雄の一幕を見ている気分だ。
「攻撃を食らう立場からすればたまったものではないけどね」
先ほども言った通り当たらなければどうということもないが、逆に言えば当たってしまったらかなりまずいことになる。
言峰本体はそこまで脅威ではないが、勇者の持った聖剣は想像を絶する威力を持つ。
足を動かそうとして、自由が利かないことに気付いた、足元を見ると何か木のようなものが地面から生えており、それが自分の足首をつかんでいることが分かった。
言峰のステータスにはこんな魔法記載されていなかった、第一彼はあの光輝く剣を放つのに精一杯なのだ。
「だとすると」
自分はクラスメイト達の方に視線を移す、するとどうだろうか。
ティファが桐埼の腕の中で縮こまりながら、何か魔法を詠唱している姿が見て取れた。
桐埼や他のクラスメイトは言峰の光る剣に目がいっていて誰も彼女が魔法を使っていることに気づかない。
彼女はにやりと笑う、どうしても自分を勝たせたくないらしい。
「終わりだぁ! 影山ぁ!」
力が十分溜まった聖剣がこちらめがけて振り下ろされた。
「くっ」
双剣を構えてその攻撃を受け止めようとする。
剣同士がぶつかった瞬間、広場は明かりで満たされた。
◆◆◆
広場の中央にクレーターができた、辺り一面を今の衝撃でできた土煙が覆い咳き込む人が多い。
クラスのみんなは僕の姿を確認すると、嬉しそうな顔をして出迎えてくれた。
「影山殿の遺体は見つかりませんがこの状況からみておそらく死亡したものと思われます。
よってこの勝負言峰殿の勝ちとします!」
審判が高らかに勝敗を告げた。
「言峰君!!」
桐埼さんが僕に駆け寄ってきた、相当心配してくれたようで泣きながらそのまま抱き着いた。
「心配したんですよ!?」
生徒会長の町田さんも僕に寄り添って肩を震わせていた、この人たちを相当不安にさせてしまって僕は申し訳ない気分になる。
「そうだ! ティファは」
そういってあの薄幸なメイドを探す、すると桐埼さんの後ろからヒョコッと顔を出して嬉しそうにしていた。
「言峰様、ご覧ください」
そういってティファは首元を指す、するとチョーカーが何度か輝いた後、静かに切れて地面に落ちた。
ティファは晴れて自由の身になったのだ。
うれしいのだが、ただどうしても後悔が残る。
「僕は君を救うためとはいえ影山を殺してしまった、僕は正しかったのだろうか?」
するとティファが僕の手を握って優しく話し始めた。
「言峰様が一生懸命戦ってくれたおかげで、私は影山の呪縛から解放されました。
誰が何を言おうとあなた様は私の英雄です!」
そういって輝くような笑顔を見せてくれた、それだけで幾分か僕の心に光が差す。
「何言ってるのよ、あいつは死んで当然のことをしたのよ言峰君が責任を感じることではないわ。」
そういって桐埼さんも僕を励ましてくれる。
「では言峰様、改めて民衆に自身の勝利を伝えてもらってもよろしですか?」
王女も穏やかな笑顔で話しかける、僕は民衆の前に立って大声で宣言した。
「みんな応援してくれてありがとう!この世界は僕たちが守る!!」
それとともに四方八方から大歓声が巻き起こる、誰もが僕のことを勇者として認めてくれたんだと実感した瞬間だった。
そこには言峰の勝利を賛辞するものであふれていた。
誰もが彼に注目し惜しみない声援を送っていた。
だからだろうか?
広場から遠ざかる一つの小さい影に
誰も気付かなかったのは。
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